理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0042
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口述
高齢入院患者におけるサルコペニアと非サルコペニアの比較
内部障害患者の身体組成,身体機能に着目して
佐藤 憲明高永 康弘
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抄録

【はじめに,目的】サルコペニアに関する報告は近年国内外で多数されており,Yamadaらは本邦の一般高齢者のサルコペニア有病率は約20%で,後期高齢者になると急激に増加すると述べている。年々後期高齢者の割合が高くなっている入院患者は,加齢に加え低活動,低栄養,疾患による二次性サルコペニアを来しやすいためサルコペニア有病率が高くなっていると思われる。しかしながらサルコペニアをスクリーニングした調査は地域在住の高齢者が対象であることが多く,入院患者を対象としたものは少ない。そこで本研究では高齢入院患者を対象にサルコペニアのスクリーニングをするとともに,その身体組成と身体機能について検討した。【方法】対象は当院に心血管疾患や呼吸器疾患などの内部障害で入院した65歳以上の高齢患者42例。歩行に支障を来すような運動機能障害や認知症のある患者および呼吸,循環動態が不安定な患者は除外した。四肢骨格筋肉量は生体電気インピーダンス法(BIA)であるタニタ社製マルチ周波数体組成計で測定し,skeletal muscle mass index(SMI)を求めた。その他の身体組成として,体脂肪率,骨量を測定した。骨量は体重で除した値を採用した。尚,日内変動による誤差を避けるため,測定は午前10時から11時台に全例実施した。身体機能は,握力,通常歩行速度,膝伸展筋力,Functional Reach Test(FRT),Timed Up & Go test(TUG),片脚立位時間,CS-30を測定した。その他の調査項目は年齢,性別,BMI,歩行自立度,在院日数とした。全ての評価は退院前に実施した。サルコペニアのスクリーニングは,新しく提唱されたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の基準に従った。歩行速度0.8m/s以下または握力:男性26kg 女性18kg未満とSMI(BIA):男性7.0kg/m2 女性5.7kg/m2未満を満たした者をサルコペニアと判定した。サルコペニア群と非サルコペニア群の比較は対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,フィッシャーの正確確率検定を用いた。また,握力,歩行速度以外のサルコペニアに影響のある身体機能因子を検討する目的で,サルコペニアを従属変数とし,膝伸展筋力,FRT,TUG,片脚立位時間,CS-30を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。抽出された因子のカットオフ値はReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線より求めた。統計処理はIBM SPSS statistics 21を使用し,有意水準は5%とした。【結果】サルコペニア群15例(男性9例 女性6例),非サルコペニア群27例(男性20例 女性7例)に分類された。サルコペニアの有病率は全体で35.7%,男性31.0%,女性46.2%であり両群の男女比に有意差はなかった。サルコペニア群の平均年齢は非サルコペニア群よりも有意に高値で(79.1±7.6 vs 72.8±6.3歳 p<0.01),BMIは低値であった(19.8±2.2 vs 21.9±2.7 kg/m2 p<0.05)。サルコペニア群は病棟内独歩自立したものは有意に少なく(p<0.001),在院日数は両群で有意差がなかった。身体機能は全てサルコペニア群の方が有意に低かった(膝伸展筋力p<0.05 他p<0.01)。体脂肪率は,有意差はなかったがサルコペニア群の方が高い傾向にあった(26.3±6.9 vs 22.5±7.1% p=0.0986)。骨量体重比はサルコペニア群の方が有意に低かった(3.8±0.46 vs 4.1±0.34% p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果は,FRTのみが影響因子として抽出された(OR 1.225 95%CI 1.062-1.412 p<0.01)。またROC曲線からFRTのカットオフ値24cmが得られた。このカットオフ値は曲線下面積0.7741,感度81.5%,特異度60%であった(p<0.01)。【考察】サルコペニア群は後期高齢者が多く,先行研究を支持するものとなった。また痩せているが体脂肪は多い傾向にあり,体脂肪率が男性25%以上,女性30%以上のサルコペニア肥満が男性6例,女性3例存在した。身体機能の改善や再発予防には,このサルコペニア肥満を解消することが重要と思われる。骨量と骨密度は有意な相関関係があり,骨量の少ないサルコペニアは骨折の危険性が高いと言える。Hidaらはサルコペニアが大腿骨近位部骨折の独立した危険因子であると述べており,特に転倒予防に努める必要があると考える。サルコペニアの影響因子として抽出されたFRTのカットオフ値24cmは,Duncanらが提唱した転倒リスクカットオフ値25.4cmと近く,興味深い結果となった。サルコペニアは重心移動が困難になり易く,これが歩行回復遅延の一因になっていると思われる。【理学療法学研究としての意義】高齢入院患者に対して理学療法を実施する際,サルコペニアの有無を把握することは治療戦略や再発・転倒予防を考える上で重要である。

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© 2015 日本理学療法士協会
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