理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0198
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口述
自己と他者の歩行観察における脳活動の違い
渕上 健中井 秀樹森岡 周
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キーワード: 自己, 歩行観察, 脳活動
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抄録

【はじめに,目的】近年,歩行能力障害に対する神経リハビリテーションのひとつとして,他者の運動観察を取り入れた介入の有効性が報告されている(Banty;2010)。さらに,この効果を高めるためには観察時により鮮明なイメージを作れるかが重要であるとされており,より自己の歩行をイメージしやすいように,他者の歩行映像のみでなく,自己の歩行映像も使用した介入の有効性が報告されている(Hwang;2010)。しかし,脳イメージング研究では,他者の運動を観察したときの報告がほとんどで,自己の運動を観察したときの脳活動を記録したものは見当たらない。よって,本研究の目的は,自己と他者の歩行観察における脳活動の違いとそれらのパフォーマンスに対する影響を調査することである。【方法】対象は右利きの健常成人13名(平均年齢20.5±0.8歳,男性6名,女性7名)とした。脳活動の計測にはfunctional near-infrared spectroscopy FOIRE3000(島津製作所製;以下,fNIRS)を用い,前頭葉から頭頂葉を含む51チャンネル(以下,ch)で測定した。条件は自己と他者歩行映像を各0.5,1.0,1.5倍速で再生し,計6条件とした。一つの条件の観察セッションが終了すると,その条件の歩行セッションへと移行した。観察セッション中の歩行観察時には,自身がVTRと同じように歩行するイメージをつくるよう教示した。観察後,イメージの鮮明度についてVASを記録した。歩行セッションでは,快適歩行を行うよう指示し,シート式足底接地足跡計測装置ウォークWay MW-1000(アニマ社製)にて,歩行速度と歩調,歩幅を同時計測した。fNIRSのデータは,各Chで平均Oxy-Hb量とEffect Size(以下,ES)を算出し,Region of Interest解析を実施した。統計処理において,ESとVASは二元配置分散分析し,主効果が見つかった場合Bonfferoni法を実施した。平均Oxy-Hb量は課題時と安静時で,歩行パラメーターは介入前と課題時でt検定を実施した。統計解析にはSPSS ver17.0を使用し,有意水準は0.05未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学研究倫理委員会に承認され(受付番号;H25-5),各参加者に充分な説明を行い,署名にて同意を得た。【結果】1.0倍速歩行観察条件の平均Oxy-Hb量において,自己では右の背側運動前野と上頭頂小葉が,他者では左の腹側運動前野と下頭頂小葉が安静時に比べ有意に増加した。1.0倍速歩行観察条件のESにおいて,右背側運動前野では自己が,左下頭頂小葉では他者が有意に大きかった。また,1.0倍速の自己歩行観察条件における右背側運動前野と右上頭頂小葉のESには強い相関が見つかった(r=0.89)。0.5倍速の自己歩行観察後の歩行時において,左背側運動前野のESが他者に比べ有意に大きかった。イメージの鮮明度のVASでは,0.5倍速と1.0倍速で自己が有意に高かった。歩行速度と歩調において0.5倍速の両群が介入前よりも有意に低下し,歩幅は自己でのみ有意に低下した。【考察】Naitoら(2009)は,身体表象を司る前頭・頭頂ネットワークにおいて,右半球が自己身体表象に関係し,左半球が他者や外界と相互作用とする身体表象に関係すると報告している。これより,自己観察条件では,自己身体表象ネットワークである右前頭・頭頂ネットワークが活動し,他者観察条件では,ミラーニューロンシステムを含んだ外界と相互作用する身体表象ネットワークである左前頭・頭頂ネットワークが活動したと考える。VASの結果から,自己の方が有意に鮮明なイメージができることが示された。よって,より鮮明なイメージをするためには,右前頭・頭頂ネットワークを賦活させることができる自己映像が効果的であると考える。0.5倍速の自己観察後の歩行中のESにおいて,左背側運動前野で有意に大きく,このとき歩幅は自己のみが有意に小さくなっていた。背側運動前野は,上頭頂小葉と連絡し空間における肢の動きに関連している。よって,この活動が歩幅を調整した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】システマティックレビューでは,イメージ介入における効果は一定ではないことが報告されている(Langhome;2009)。その要因の一つにイメージの鮮明度の問題が挙げられる。本研究から,自己と他者の歩行観察における脳内処理が異なることが明らかとなり,右前頭・頭頂ネットワークの賦活がより鮮明なイメージを導くことが示唆された。したがって,これらの知見を考慮することで,より効果的な運動イメージ介入の展開が期待できると考える。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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