理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-13
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一般口述発表
ACL損傷再受傷症例の競技復帰時期における膝関節伸展・屈曲筋力および股関節外転筋力の検討
中田 周兵松本 尚青木 喜満
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抄録

【はじめに、目的】 前十字靱帯(Anterior Cruciate Ligament: 以下ACL)損傷は,代表的なスポーツ外傷の一つである.ACL損傷膝は大きな不安定性を呈すため,保存療法でのスポーツ復帰は困難であり,手術療法としてACL再建術が選択されることが多い.近年は,手術手技や後療法の発展により,ACL再建術後の競技復帰に関しては,安定した成績が期待できるようになっている.しかし一方で,競技復帰をすることによって,再建靱帯もしくは反対側ACLを再損傷してしまう症例も散見される. ACL損傷予防の観点から,受傷メカニズムやリスクファクターに関する先行研究は多いが,その一方でACL損傷の再受傷に関して検討した報告は未だ少ない.ACL損傷再受傷に関するエビデンスを構築することは,競技復帰の安全性を担保する上で重要である.そのため本研究では,ACL損傷再受傷症例の競技復帰時期の等速性膝関節伸展・屈曲筋力および等尺性股関節外転筋力に関して調査した.【方法】 対象は,当院でACL再建術を施行後、ACL損傷再受傷と診断された8例(男性2例,女性6例)とした.取り込み基準は,術後9ヶ月における筋力測定データがある者とし,除外基準は,ACL再建術以外の手術歴がある者、ACL再々受傷の者,明らかな再受傷機転のない者とした.初回再建術式は,全症例で半腱様筋腱および薄筋腱を用いた解剖学的二重束ACL再建術であった.術後リハビリテーションは,術翌々日より患部外トレーニングを開始し,術後1週でROM-exおよび全荷重を開始した.また,術後3ヶ月でジョグ開始とし,術後6ヶ月よりスポーツ動作練習開始、術後9ヶ月で競技復帰許可とした.等速性膝関節伸展・屈曲筋力は,BIODEX System 3(BIODEX社製)を用いて,60°/s,180°/s,300°/sの角速度で測定した.等尺性股関節外転筋力測定は,側臥位で股関節内外転中間位,伸展屈曲中間位,内外旋中間位にてハンドヘルドダイナモメーター(μTas MF-01;ANIMA社製)を大腿骨外側上顆にあて3回測定し,そのうちの最大値を採用した.術後9ヶ月時点での膝関節伸展・屈曲筋力および股関節外転筋力を再受傷側と非再受傷側とに分け,Paired t-testによって比較し,統計処理は有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全ての対象者には,ヘルシンキ宣言に則り、事前に研究目的および測定内容等を明記した書面にて十分に説明した.そして,対象者からの同意が得られた場合には、同意書に署名の記載を受けた.また,対象者が未成年の場合,親権者に対しても同様の手順で同意を得た後に、同意書に署名を受けた.【結果】 ACL損傷再受傷した8例の平均年齢は17.9歳(14-26歳)で,競技はバスケットボールが6例,スキーとバドミントンで各1例であった.再受傷側は,再建側で2例,反対側で6例であった.再受傷発生時期は、再建側で平均9.5ヶ月,反対側で平均16.8ヶ月であった.術後9ヶ月時点での等速性膝関節伸展・屈曲筋力は,60°/s,180°/s,300°/sの角速度いずれにおいても,再受傷側と非再受傷側との間に統計学的有意差は認められなかった.一方,等尺性股関節外転筋力は,非再受傷側で14.5kgに対し再受傷側で13.3kgであり,有意に再受傷側の股関節外転筋力が低かった(p<0.05).【考察】 過去の報告によりACL損傷再受傷の要因は,術後の活動レベル,性別,移植腱の種類などが関与している可能性が示唆されている.また,再建側の再受傷では再建靱帯の成熟不良により,微細な外力で破断する可能性があると報告されている.本研究では,明らかな再受傷機転のあるものを対象としているため,外傷による再受傷であると考えている. 本研究では,バスケットボールやスキーなど高い活動レベルへ復帰した症例で再受傷を認め,過去の報告と同様の結果が得られた.さらに,股関節外転筋力の筋力不足が再受傷発生に関与していることが示唆された.先行研究においては,競技復帰時の再受傷症例の特徴として,動作時の左右非対称な股関節キネマティクスを認めたと報告している.このことからも,競技復帰の際には膝関節伸展・屈曲筋力が一般的に指標として用いられるが,再受傷の予防のためには股関節外転筋力の評価も必要であることが示された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,ACL再建術後の競技復帰の際に,膝関節伸展・屈曲筋力のみでは再受傷リスクを推測できない可能性が示唆された.競技復帰の安全性を担保するために,股関節周囲筋を含めた包括的な評価が必要であることを示した本研究は意義深いと考えている.

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© 2013 日本理学療法士協会
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