理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-08
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一般口述発表
高齢COPD患者に対する呼息時低周波電気刺激の効果
伊藤 健一野中 紘士濃添 建男奥田 みゆき川村 博文
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抄録

【はじめに、目的】 近年増加し続ける慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の理学療法は,息切れの改善と増悪の予防,そして寝たきり予防の観点から一層のニーズが見込まれる。この理学療法におけるコンディショニングでは肺気腫でみられる閉塞性障害と動的肺過膨張の特性を考慮し「呼気延長呼吸」と「口すぼめ呼吸」の指導が息切れの軽減に有用とされているが,我々は「呼気延長呼吸」においては高齢者の在宅での実施率が低い印象をもっている。 本研究の目的は,高齢COPD患者に対する他動的な「呼気延長呼吸」の促通手段として呼息時低周波電気刺激(PESE)を用い,その効果を,安静時および運動時の換気機能や酸素摂取量に着目し検討することである。【方法】 研究デザインはRandomized controlled trial,Double blind testである。対象は呼吸器内科を受診する高齢COPD患者のボランティア24名で,これらの対象者に対し安静5分,エルゴメータによる運動5分(強度:30-40%HRmax),リカバリー5分の計15分からなるプロトコルでベースラインの測定を実施した。その後,乱数表によりプラシーボ群とPESE群に無作為に割り付け,各群の介入のもと同プロトコルでの測定を実施した。ベースラインおよび介入における測定では分時換気量(VE),1回換気量(TVE),呼吸数(RR),吸気時間(Ti),呼気時間(Te),呼吸時間(Ttot)等の換気指標と酸素摂取量(VO2/W)等を呼吸代謝装置で計測した。また、同時にBorgスケール(Borg),経皮的酸素飽和度(SpO2)も計測した。プラシーボの刺激条件は周波数:25Hz,パルス幅:200μs,刺激時間:10sec,休止時間:10sec,刺激強度:痛み閾値の70%とした。PESEの刺激条件は周波数:20Hz,パルス幅:200μs,刺激時間:対象者の呼気時間と同じ,休止時間:対象者の吸気時間と同じ,刺激強度:痛み閾値の70%とした。刺激部位は両群ともに左右腹筋群上とした。 サンプリングデータは,両群間で比較検定を行い(Mann-Whitney検定,有意水準:危険率5%未満),高齢COPD患者に対するPESEの効果を検討した。なお、本研究のサンプルサイズは主たるアウトカムメジャーを呼吸数の2群間の差とし,パイロットスタディで得られたデータを参考に,その呼吸数の差を5回/分(SD:4.3),α:0.05,power:0.80として算出した。結果サンプルサイズは各群13名の計26名となり,このサンプル数の確保を目標とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の計画にあたり,大阪府立大学総合リハビリテーション学部倫理委員会(承認番号:2010P10)と結核予防会大阪府支部大阪病院倫理委員会の承認を得るとともにヘルシンキ宣言を遵守した。また対象者には十分なオリエンテーションを行い,文書にて研究参加の同意を得た。【結果】 ボランティア24名のうち,最終的にプラシーボ群11名,PESE 群12名が解析の対象となった。この両群間には年齢やGOLDステージ分類,MRCスケール,肺機能等には有意差は認められなかった。またベースラインにおけるプラシーボ群とPESE群の各測定項目間にも有意差は認められなかった。 プラシーボ群のベースラインとプラシーボ介入の比較では,安静時・運動時とも明らかな変化は認められなかったが,PESE群のベースラインとPESE介入の比較では安静時・運動時とも有意なTVEの増大,RRの減少,Tiの延長,Teの延長,Ttotの延長,VD/VTの減少を認めた(P=0.002-0.034)。Borg,SpO2,VO2/Wについては有意差を認めなかった。【考察】 本研究の結果よりPESEが安静時および運動時の換気効率を改善することが明らかとなった。また,その際にはPESEが仕事量増大の指標になり得るVO2/Wの増大を誘発しないことが証明された。 PESEによってこのような効果が得られた要因としてバイオフィードバックの効果が考えられる。呼息時に流れる電流の通電感覚が呼気延長を意識させ,呼気延長を促通したものと考える。そして,今回の刺激条件は低強度であったため,治療的電気刺激としての効果を期待できるものではなかったが,現状ではその可能性を完全に否定することはできない。本研究ではPESEの換気機能改善の機序を明確にすることができなかった。このことが本研究の限界である。よってPESEの刺激条件や刺激部位と換気機能の関係を考察していくことが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 本研究は,COPD患者の日常生活における「呼気延長呼吸」を習慣づけさせるため手法開発に繋がる研究であるとともに,高齢COPD患者の在宅における呼吸運動を支援する装置の開発にも繋がる有意義な研究と考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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