理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-31
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ポスター発表
足趾トレーニングが前方安定性限界に与える影響-圧迫力トレーニングと把持力トレーニングの比較-
渡邉 紗樹横山 実芽後藤 友美宮川 雅幸西山 徹
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抄録

【はじめに、目的】臨床現場では,転倒予防へのアプローチのひとつとして,タオルギャザートレーニング(足趾外在筋トレーニング)が推奨されている.しかし他研究では,転倒予防に対するアプローチとして,足趾内在筋トレーニングが推奨されている.そこで我々は,足趾把持力トレーニング(以下把持力トレーニング)と足趾圧迫力トレーニング(以下圧迫力トレーニング)の前方安定性限界の延長に対して比較を行い,どちらが有効であるかを検証することを目的とした.【方法】対象者は健常成人27 名(男性:14 名,女性:13 名,年齢20.2 ± 1.24 歳)とし,圧迫力・把持力トレーニング前後の前方安定性限界を測定した.対象者を無作為に2群に分類し,比較検討した.測定項目は,無作為に2群に分けた全対象者の身長(cm)・体重(kg)・前方安定性限界(mm)・アーチ高(cm)を計測した.前方安定性限の測定方法は,重心動揺計(アニマ社製GRAVICODER GS-11)を使用し,2m前方の黒点を注視した状態で踵が離れないよう10 秒かけて前足部に重心を移動させ,元の位置に戻るように指示した.その際のY方向最大振幅の値を計測値にした.アーチ高は,床面の高さから舟状骨とした.変化率の算出方法は,介入後を介入前で徐し,更に100 で積分した値とした(変化率=介入後/介入前× 100).足趾把持力トレーニングは立位にて,タオルギャザーを無負荷で行った.1mのタオルを引き寄せる方法で,左右3 回(1 分間に20 回のペース)行った.足趾圧迫力トレーニングは立位にてトレーニングを実施した.膝関節を伸展した状態で,前方に出した下肢に最大荷重させ,左右100 回(50 回× 2)を実施した.それぞれの測定値の統計処理は, 各トレーニング介入前後の前方安定性限界は,対応のあるt検定を用い,介入前のベースラインの比較および各トレーニング介入による変化率は,対応のないt検定を用いた.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として,対象者に対し,本研究の目的,内容,予測される危険性などを説明したうえで,本研究に参加することの同意を書面にて取得した.【結果】各トレーニング群の測定項目に有意な差は認められなかった.把持力トレーニング群の前方安定性限界は,介入前で122.7 ± 20.2mm,介入後で137.9 ± 27.2mmであり,その変化率は,113.5 ± 19.2%であった.圧迫力トレーニング群の前方安定性限界は,介入前で115. 5 ± 30.1mm,介入後で128.7 ± 37.7mmであり,その変化率は113.2 ± 22.5%であった.把持力トレーニング群では,前方安定性限界は有意に延長し,圧迫力トレーニング群は,前方安定性限界の延長に有意傾向を示した.しかし,トレーニング間の変化率に有意差は認められなかった.【考察】両トレーニングの結果から,前方安定性限界の延長に有意傾向を示した.その理由として,筋線維増殖や筋肥大の前段階として Hennemanのサイズの原理における神経性因子が関与していることが考えられる.トレーニング開始初期の筋力増強は,神経性因子が大きく関与し,筋力増強の効果は約3 週目で生じる.各トレーニングにより,求められる筋活動が多いほど,必要とされる筋量が増加する.そのため,両筋群の運動単位が増加することで,神経支配の増加,活動の同期化と順に行われ,筋出力が高まったと推測した.各トレーニング群の変化率に有意差は認められなかった.他研究において内在筋トレーニングでは,6 週間のトレーニングの中で2 週目からアーチ高の向上が認められた.しかし,本研究では,3 日間とトレーニング期間が短期間であったため,前方安定性限界が有意に延長しなかったと考えた.また,今回実施した圧迫力トレーニング方法では,両筋群を区別したトレーニングは困難であったと考える.その理由として,両筋群共に歩行周期中に足部に下腿を安定させる作用を持つため,立位姿勢で行ったトレーニング時には,両筋群のどちらも使用していた可能性が考えられる.よって今後は,内在筋筋力測定法の確立,内在筋への適切な運動負荷量の調査,トレーニング期間の延長による介入効果の向上を研究・調査が必要であると示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,バランス機能の改善におけるトレーニング方法では,足趾把持力トレーニングのほうが短期間で効果があることが示唆された.これにより,より適当なバランス改善トレーニングを行えることが出来,今後の理学療法の一助となると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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