理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-25
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ポスター発表
Kinectを用いた関節可動域測定方法の信頼性と妥当性の検討
清水 良祐田中 伸哉堀田 一樹神谷 健太郎亀川 大輔秋山 綾子鎌田 裕実片桐 麻愉石井 春香水澤 純一安達 栄治郎増田 卓
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抄録

【はじめに、目的】関節可動域(ROM)の測定は、整形外科手術後の固定や脳血管疾患後の関節拘縮に対して, リハビリテーションの効果を評価するために広く行われている。しかし、臨床的に行われているROMの測定は、患者の衣服の上から測定部位を探し、可動域測定のための基準線を目測で決めるため、検者の主観が入りやすく測定結果のばらつきが大きいという欠点がある。さらに、測定時には検者が患者を介助しながらゴニオメーターを使用することが多いため、ROM測定そのものが検者の技術と経験に影響されるという問題もある。一方、近年家庭用ゲーム機のために開発された簡易型多視点モーションキャプチャ装置(Kinect, マイクロソフト社)は、小型デジタルカメラで被験者を撮影するだけで、コンピュータが身体の位置情報を取り込んで動作を瞬時に解析できる装置である。またこの装置は、従来の三次元動作解析装置とは異なり、小型で安価なうえに、被験者の身体にマーカーを貼り付けることなく動作を解析できる利点を持ち合わせている。そこで本研究の目的は、Kinectを使用したROM測定でROMの定量的な評価が可能か否か、さらにこの測定方法が簡便な手段として臨床応用が可能か否かを検証することとした。【方法】健常若年者10 名(23 ± 3 歳)を被験者、臨床経験を有する理学療法士(PT)5 人を検者とした。初めに、KinectによるROMの測定方法の信頼性と妥当性を同時に検討するために、Kinectと独自に開発したROM測定用のアプリケーションソフトを使用して、右肩関節の外転方向への最大ROMをコンピュータ上で計測した。Kinectで測定するのと同時に、検者がゴニオメーターを使用して従来の方法で同部位のROMを測定した。ROM測定は、Kinectが自動的に計測した結果と、理学療法士が測定した結果の両者を記録した。ROM測定は、被験者1 人につき上記の方法で、1 日以上の間隔を空けて2 回行い、全被験者に対して合計100 測定を実施した。KinectによるROMの測定方法の信頼性は、Kinectと検者による5 回の測定結果を、検者内の級内相関係数 (ICC)と検者間のICCをそれぞれ算出し比較することで検討した。KinectによるROMの測定方法の妥当性は、Kinectおよび検者によって測定された値をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】すべての被験者と検者には、本研究の主旨と内容を説明した上で、研究に参加することの同意を得た。なお、本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得て実施された。【結果】Kinectと検者による測定結果の検者内ICCは、それぞれ0.90、0.82 であり(それぞれP<0.05),その検者間ICCは、それぞれ0.73、0.68 であった(それぞれP<0.05)。また、Kinectと検者によって測定されたROMの値には有意な正の一次相関が認められた(r=0.69, P<0.05)。【考察】KinectによるROMの測定値は、PTによる測定値と比較して同程度もしくはより高い信頼性を示し、KinectによるROM 測定は、より誤差の少ない測定結果が得られると思われた。リハビリテーションの臨床現場では、患者のROMを担当PT 以外のPTが測定することがあり、検者間での誤差が生じやすい。しかし、Kinectを使用して測定することでその誤差を少なくし、患者の身体状況をより正確に把握することができると考えられた。一方で、KinectによるROMの測定の妥当性に関しては、PTが測定した値と比較して誤差が大きくなるため、Kinectおよびアプリケーションソフトの更なる改良が必要と思われた。【理学療法学研究としての意義】本研究は、Kinectを用いたROM測定が、臨床で行われている従来のROM測定よりも簡便に実施でき、高い信頼性と妥当性のある新しい測定方法をであることを報告した研究である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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