理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-05
会議情報

ポスター発表
腰椎固定術後1年の健康関連QOLの検討
大谷 貴之石田 和宏宮城島 一史佐藤 栄修百町 貴彦柳橋 寧安倍 雄一郎菅野 大己増田 武志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】近年,腰椎固定術後の治療効果判定に健康関連QOL評価であるMOS 36-Item Short-Form Health Survey ver.2(SF-36)が使用され,術前との比較で概ね良好であるとの報告が多い.先行研究にて我々も術後6ヶ月のSF-36を検討し,術前との比較で同様の結果が得られた.一方,SF36は年代別・性別の国民標準値が算出されており,整形外科領域において幅広く用いられている.しかし,腰椎固定術後のSF-36について国民標準値と比較検討した報告はない.さらに,移植骨の骨癒合が完成し,重労働やスポーツ活動などの制限も解除される術後3~6ヶ月以降のSF-36の改善度を示した報告も認められない.本研究の目的は,術後1年のSF-36と年代別・性別の国民標準値を比較検討すること,術後6ヶ月と術後1年のSF-36の改善度を調査することである.【方法】対象は,2009年4月から2011年3月までに1~2椎間の腰椎固定術を行い,術後1年のSF-36に記載漏れがなかった60・70歳代の81例(60代;男性18例・女性17例,70代;男性17例・女29例)とした.後療法は術後2~3週のクリティカルパスを用い,退院後は入院中の運動を継続するように指導した.定期的な通院リハビリテーション(リハビリ)は実施しなかった.SF-36は,下位尺度である physical functioning(PF:身体機能),role physical(RP:日常役割機能-身体),bodily pain(BP:身体の痛み),general health perceptions(GH:全体的健康感),vitality(VT:活力),social functioning(SF:社会生活機能),role emotiional(RE:日常役割機能-精神),mental health(MH:心の健康)を使用した.年代別・性別の国民標準値は,SF-36マニュアルVer.2を参考にした.術後1年のSF-36と年代別・性別の国民標準値との比較には1標本t検定を用い,さらに効果量(r)も算出した.続いて,術後6ヶ月と術後1年のSF-36の改善度を比較検討した.術後6ヶ月のSF-36は,先行研究の61例のデータを使用した.術後1年のSF-36の対象には,交絡要因と考えられる年齢・性で6ヶ月のデータと無作為にマッチングさせた61例を用いた.統計的検討はMann-Whitneyの検定を行い,有意差を認めた項目について効果量(r)も算出した.有意水準は全て5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象には,ヘルシンキ宣言に則り,本研究の趣旨,目的,方法,参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得た.【結果】術後1年のSF-36と国民標準値との比較では,60歳代の男性はRP・BP・MH,女性はPF・RP・BP・GH・RE,70歳代の男性はPF・RP・RE,女性はBP・MHが国民標準値よりも有意に低く(p<0.05),効果量もr=0.43~0.79(効果量中~大)であった.術後6ヶ月と術後1年の比較では,RP・BP・SF・REが術後1年で有意に改善しており(p<0.05),効果量はBPがr=0.33(効果量中),その他はr=0.20~0.23(効果量小)であった.【考察】本研究の結果より,術後1年のSF-36の下位尺度は国民標準値よりも明らかに低値を示していた.これは,渡辺ら(2009)の報告と同様に,腰椎固定術では骨癒合が完成し,活動制限を与えていない術後1年においても国民標準値には到達しないことを示している.また,Juricekら(2010)は腰椎固定術後6ヶ月から2年のSF-36を調査し,精神的尺度よりも身体的尺度の改善が優れていたと述べている.我々の結果でも,術後6ヶ月と術後1年の比較より,身体的尺度の一つであるBPで6ヶ月以降の改善度が「効果量:中」と良好であった.従って,腰椎固定術後の健康関連QOLは,術後6ヶ月以降の改善も期待できる可能性があり,骨癒合までの活動制限による廃用性の機能障害も考慮し,段階的で継続的な運動療法および生活指導を検討すべきと考える.【理学療法学研究としての意義】本研究は腰椎固定術後のSF-36に関して国民標準値と比較検討した本邦では数少ない報告の一つである.さらに骨癒合が完成し,活動制限が解除される術後6ヶ月から術後1年の改善度を調査したことにより,術後の継続的なリハビリ実施の必要性を示唆することが出来た.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top