理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-18
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一般口述発表
腰椎固定術後1年の健康関連QOLに影響する術前因子の検討
宮城島 一史対馬 栄輝石田 和宏大谷 貴之佐藤 栄修百町 貴彦柳橋 寧安倍 雄一郎
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抄録

【はじめに,目的】 近年では様々な疾患に対する治療効果判定として,広く世界的に健康関連QOL(HRQOL)の評価であるSF-36が用いられている.腰椎固定術後においても,SF-36が向上する効果があるとの報告が多くなっている.しかし,本邦においては腰椎固定術後のHRQOLに何が影響しているか,関連する因子を検討した報告は皆無である.そこで,HRQOLに影響を及ぼす術前の因子を明らかにできれば,理学療法の一助になると考えた. 本研究の目的は,腰椎固定術後1年時のHRQOLに影響する術前因子を明らかにし,理学療法の参考とすることである. 【方法】 対象は,当院で2009年4月1日から2011年3月31日までに腰椎固定術を実施し,術後1年以上経過した624例中,3椎間以上の症例を除き,記録の不備がない94例(年齢69.0±9.3歳,男性37例,女性57例)とした.HRQOLの評価としてSF-36v2を使用した.検討項目は,術前の性別,年齢,BMI,職業,同居家族,喫煙,他部位の整形外科疾患の既往,合併症,腰椎手術の既往,膀胱機能,下肢筋力(MMT),ODI sub score(痛みの強さ,身の回りのこと,物を持ち上げること,歩くこと,座ること,立っていること,睡眠,社会生活,乗り物での移動),SF-36の8下位尺度(身体機能:PF,日常役割機能-身体-:RP,身体の痛み:BP,全体的健康感:GH,活力:VT,社会生活機能:SF,日常役割機能-精神-:RE,心の健康:MH)とした. 統計的検討は,術後1年時のSF-36の8下位尺度を従属変数,その他の術前の検討項目を独立変数とした正準相関分析を用いた.【倫理的配慮,説明と同意】本研究における評価項目は日常診療でも必要な情報であり,実験的な介入を行ったものではない.対象にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の趣旨,目的,方法,参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護についての十分な説明を行い,同意を得た. 【結果】 第1正準変量(正準相関係数0.786)は,GH(正準負荷量0.825),MH(0.543),ODIの「社会生活」(0.468),SF(0.432),性別(0.352)の順に術後1年のGH(0.795)・MH(0.737)・SF(0.543)へ高く影響していた. 第2正準変量(0.753)は,他部位の整形外科疾患の既往(0.398)に術後1年のVT(0.524)が高く影響していた. 第3正準変量(0.735)は,年齢(0.461),PF(0.422),同居家族(0.354),ODIの「歩くこと」(0.349),下肢筋力(0.343)の順に術後1年のPF(0.771)・RP(0.690)・RE(0.564)へ高く影響していた.【考察】 本研究の結果より,腰椎固定術後1年時のHRQOLには術前の因子が大きく影響することを確認できた. 第1,2正準変量の結果より,術前の精神的QOLが低下している女性,他部位の整形外科疾患の既往がある症例は術後1年時の精神的QOLが低くなると考えた.術前の不良な精神的QOLは術後成績不良との報告(Cobo Sariano J;2010)を支持した結果となった.また,第3正準変量の結果より,高齢で独居,術前に入浴・着替えなどの活動が困難,下肢筋力が低い症例,腰痛や下肢痛のために歩行が困難な症例は,術後1年時の身体的QOLが低くなると考えた. 以上より,術前のSF-36,性別,年齢,同居家族,他部位の整形外科疾患の既往,下肢筋力,ODIの「歩くこと」,「社会生活」の情報を踏まえて理学療法を実施すべきである.高齢で独居,術前に入浴・着替えなどの活動が困難な症例は,術後にもADL低下が予想され,術後早期から退院後の生活を想定した積極的なADL指導が重要である.他部位の整形外科疾患に関しては,術後早期からの問題点となり得ることから,術後早期からの理学療法が必要と考える.また,術前から下肢筋力が低く,腰痛や下肢痛のために歩行が困難な症例も,術前評価を踏まえた術後早期からの関わりが重要であるが,手術により改善されることも予想される.今後は術後の因子を検討することが課題となる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,本邦の腰椎固定術後理学療法の参考となり得る.術後1年時のHRQOLと関連する因子を踏まえ,術後の理学療法を実施すべきである.

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© 2013 日本理学療法士協会
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