理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-17
会議情報

ポスター発表
内科的治療中に臥床を有した患者が離床時立位保持困難となる要因
村上 康朗田中 武一後藤 総介平川 みな子田岡 久嗣池上 健太郎市川 桂子岩佐 精志岡本 敦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】 理学療法士(以下PT)は臨床場面において、加療により臥床を強いられた患者の離床に立ち会うことが多い。その中で、病前歩行可能であったにも関わらず、離床時に起立や立位保持が困難である症例をしばしば経験する。その要因として、廃用性の筋力低下などが考えられるが、先行研究において治療中の臥床が立位など離床動作に及ぼす影響を検討したものは見当たらない。本研究では、治療中に臥床を有した患者において、離床時の立位保持が困難となる要因を検討することを目的とした。【方法】 対象は入院前歩行可能で内科的疾患により入院され、平成23年9月~平成24年2月の間に理学療法処方のあった患者のうち、治療中に臥床を有した120名(年齢79.9±9.9歳)とした。なお、臥床を有した、とは、1日以上継続してベッド上で過ごした時間があった、と定義した。対象者の除外規定は、外科的な処置の実施、末梢および中枢神経疾患の発症と増悪、進行性の筋・神経疾患を有する、離床に影響する疼痛がある、と設けた。方法は担当PTが所定の評価用紙に記入を行うアンケート方式とした。評価内容は、カルテからの情報(病前歩行補助具使用の有無、臥床期間、意識レベル低下の有無、離床までのC反応性蛋白(以下CRP)最大値、離床までの血清アルブミン(以下Alb)最小値)、床上動作(SLRの可否、ブリッジの可否、足関節背屈MMT3以下か否か、寝返りの可否、起きあがりの可否)、離床動作として立位保持(上肢支持なし)の可否とした。統計学的処理は、目的変数を立位保持の可否とし、説明変数を各評価項目として単変量でのロジスティック回帰分析を実施した。その中で有意差の出た項目において、強制投入法における多重ロジスティック回帰分析を実施した。多重ロジスティック回帰分析を行う際、連続変数については相互の相関係数を求め、多重共線性がないことを確認した。統計解析ソフトはJMP 8.0を使用した。各解析における有意水準は5%とした。【倫理的配慮】 PTが記載するアンケート用紙には患者名を無記名とし、個人の特定を図ることができないよう配慮を行った。【結果】 単変量でのロジスティック回帰分析において、臥床期間(オッズ比:OR 0.9、95%信頼区間:95%CI 0.85~0.96)、離床までのCRP最大値(OR 0.9、95%CI 0.87~0.95)、離床までのAlb最小値(OR 3.2、95%CI 1.68~6.72)、足関節MMT3以下(OR 0.5、95%CI 0.32~0.85)、寝返り不可(OR 4.1、95%CI 1.73~17.60)、起きあがり不可(OR 2.4、95%CI 1.60~3.70)の項目に有意差が認められた。次に、これら6項目を強制投入した多重ロジスティック回帰分析では、離床までのCRP最大値(OR 0.9、95%CI 0.85~0.95)と起きあがり不可(OR 2.3、95%CI 1.30~4.03)の項目に有意差が認められた。【考察】 本研究では離床時の立位保持可否の要因として、離床までのCRP最大値が高値であること、起きあがりが困難であることが抽出された。CRPは侵襲の指標の一つとされており、CRP高値であることから、離床時立位保持困難となる患者は疾患に伴う高侵襲を受けていたことが分かる。高侵襲から引き起こされることは多岐にわたるが、離床時立位保持に影響する一つの因子として、筋蛋白の分解による筋力低下が考えられる。しかし、単変量でのロジスティック回帰分析では、床上でのSLRやブリッジの可否には有意差が認められなかった。このことから、筋力低下が離床時立位保持困難の主な要因ではないと考えられる。起きあがり動作については、先行研究では運動機能より空間知覚や体性感覚などによる運動調整機能が必要であることが示唆されている。高侵襲に伴う全身状態不良が治療中の臥床状態を招き、空間知覚や体性感覚に影響を及ぼした結果、起きあがり動作や離床時の立位保持が困難となることが考えられた。これらのことから、離床をスムーズに進めるためにはベッド上での筋力増強練習だけではなく、空間知覚や体性感覚の低下を予防するために起きあがり動作能力を維持することが重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 理学療法の対象として、内科的疾患に伴う廃用症候群の占める割合は少なくない。本研究では、内科的疾患により臥床を有した患者がスムーズに離床を進めるためには、起きあがり動作能力の維持が重要であることが示唆された。在院日数の短縮や早期退院の流れが強まる中で、早期離床を図り、早期ADL向上を目指すために、本研究は意義があると考える。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top