理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-03
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ポスター発表
円背姿勢が椅子からの起立-歩行動作のバイオメカニクスに及ぼす影響
炭本 貴大堤 万佐子田口 潤智脇本 祥夫波之平 晃一郎阿南 雅也新小田 幸一
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抄録

【はじめに、目的】 高齢者が転倒しやすい動作である起立動作と歩行開始動作には数多くの研究成果が報告されていれる.しかし,座位姿勢から目的を持って動き出す際に,それらの動作は連続して行われるのが一般的であるにも関わらず,複合動作としての起立-歩行動作(以下,STW)についての研究は少ない.また,高齢者に多く観察される円背姿勢はバランス能力や歩行能力の低下に関連すると指摘されており,転倒の発生に何らかの影響を及ぼしていることが考えられる.そこで本研究は高齢者を扱う前段階として,健常若年者を被験者とする模擬円背装具を用いた模擬円背姿勢でのSTWの観察から,円背姿勢がSTWのバイオメカニクスに与える影響と,円背姿勢を呈する高齢者のSTWにおける転倒要因を考える上での一助とすることを目的として行った.【方法】 被験者は脊椎や下肢に整形外科的な既往および障害を有さない健常若年者10人(男性5人,女性5人,年齢21.9±0.9歳,身長167.0±6.7cm,体重56.0±7.2kg)であった.課題動作は椅子座位からのSTWとし,右下肢を1歩目として歩行を開始した.模擬円背姿勢には体幹装具(有薗製作所製)を用い,円背指数が13以上となるように設定した.装具を着用しない条件(以下,通常条件)および装具を着用した条件(以下,円背条件)の2条件で計測を行った.STW中の運動学的データはマーカを身体各標点に貼付し, 3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を用いて計測した.同時に運動力学的データは床反力計4基(Advanced Mechanical Technology社製床反力計2基およびKistler社製床反力計2基)を用いて計測した.得られたデータを基に身体重心(以下,COM),足圧中心(以下,COP),床反力,関節モーメント,各体節の角度と前傾速度の平均値を求めた.1歩目の右下肢が離地した瞬間から再接地した瞬間までを対象とした.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 14.0J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められた場合は対応のあるt検定を,認められなかった場合はWilcoxonの符号付順位検定を行った.なお有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,演者の所属する機関の倫理委員会の承認の後,被験者に対して研究の意義と目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得て実施した.【結果】 右下肢離地時のCOM-COP傾斜角および前方への床反力は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.01).左股関節および左膝関節伸展モーメント積分値は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.05).解析区間中の体幹および左股関節,左膝関節,左足関節伸展および底屈角度変化量は,円背条件が通常条件よりも有意に低値を示した(p<0.05).大腿前傾速度は,両条件間で有意な差を認めなかったが,下腿前傾速度は,円背条件が通常条件よりも有意に高値を示した(p<0.05).【考察】 歩行はCOMを前方移動させる動作であるが,円背条件では身体が前方へ傾きやすく,より前方への推進力を得ている状態であるため,COMの前方移動を行うと同時に,より高い股関節伸展モーメントの産生によるCOMの前方制動が要求されたものと考えられる.その背景として,股関節が担うCOMの前方制動の機能を支えるために,蹴り出しに伴う大腿前傾を抑制するための下腿の急速な前傾,および支持側下肢の伸展運動の抑制,膝関節伸展筋による支持性を発揮するのに必要な機能が高まったものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,健常若年者のSTWの解析から,円背姿勢はCOMの挙動を適切に制御するために,股関節と膝関節伸展筋にはより高い負荷を要求し,蹴り出し側下肢にはより高い協調性を求めることを示した点で意義がある.これらの要求は,円背姿勢を呈する高齢者がSTWで転倒しないために必要な身体機能と,用いるべき動作戦略の検討に繋げる上で有益な一助になるものと思われる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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