理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-12
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ポスター発表
脳卒中片麻痺患者における座位姿勢の変化が立ち上がり動作に及ぼす影響
谷内 幸喜
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抄録

【はじめに、目的】 著者は先行研究において、健常者においても非対称性の座位姿勢を強いられた場合、その後の立ち上がり動作に悪影響を及ぼすことを明らかにした。さらに、健常中高齢者を対象にした研究では、非対称性座位姿勢から生じる立ち上がり動作への悪影響が座面高によって相違を示した。今回、脳卒中片麻痺患者に対して、立ち上がり動作開始時姿勢と座面高を変化させて、立ち上がり動作能力への影響を検討した。【方法】 被験者は下腿長の座面高からの立ち上がり動作が可能な脳卒中片麻痺患者17名とした。まず、足部の位置を両踵部内側縁がy(前後方向)軸から左右均等かつx(左右方向)軸が両足底の土踏まずの中央と一致するようにして座位姿勢をとり、任意のタイミングにて立ち上がり動作を行なう(以下、自然条件)。次に、頸部・体幹・下肢のアライメントが左右対称となる座位姿勢に修正した後、立ち上がり動作を自然条件と同じ方法にて行う(以下、修正条件)。なお、立ち上がり動作施行は学習効果を考慮して、立ち上がり動作施行間における時間は十分配慮した中で施行した。座面高は下腿長の高さを100%とした時の130%下腿長および110%下腿長の座面高を採用した。立ち上がり動作能力を比較分析するための相分類は、動作開始前の座位姿勢において頭部が前方へ移動した時点から殿部が浮き始める(以下、殿部上昇時)までの相(以下、第1相)と、殿部上昇時から直立位をとるまでの相(以下、第2相)の2つの相に分けた方法を採用した。分析項目1)第1相および第2相における身体重心座標(以下、COG)と足圧中心座標(以下、COP)の変動幅。分析項目2)殿部上昇時における体幹股関節屈曲角度および角速度と膝関節屈曲角度および角速度。分析項目3)第1相動作時間および立ち上がり全動作時間。分析に関しては、2通りの座面高それぞれにおける自然条件と修正条件の平均と標準偏差を計算し、両者群にて統計的比較を行なった。分析方法として、データの正規性を確認してから、一対の標本による平均の検定を用い有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、研究説明書、研究同意書、研究同意撤回書を作成。被験者に研究参加に対する自由意志と権利の確認、個人情報保護に対する配慮を十分に説明し同意を得た。【結果】 130%下腿長からの立ち上がり動作(以下、130%)において、自然条件に比べ修正条件で以下の結果が認められた。1)第1相におけるCOGxおよびCOGyともに変動幅は有意に減少していた(P<0.01)(P<0.05)。2)殿部上昇時における体幹股関節屈曲の角度は有意に減少(P<0.01)していたが、角速度は有意に増大していた(P<0.05)。3)第1相動作時間および立ち上がり全動作時間ともに有意に短縮していた(P<0.01)(P<0.05)。【考察】 COG変動幅は、「立ち上がり動作中の動揺性」を意味し、COP変動幅は、「立ち上がり動作中のCOG制御機能」を意味することや、脳卒中片麻痺患者における非麻痺側偏位の立ち上がり動作は、COG左右方向の偏位とともにCOG左右変動幅増大を伴う不安定な立ち上がり動作であることは、緒家の報告からも伺われる。今回130%自然条件に対する130%修正条件で、第1相におけるCOG変動幅減少が認められたことは、脳卒中片麻痺患者が行う130%での左右対称座位姿勢における立ち上がり動作は、動揺性が少ない安定した立ち上がり動作を呈していることが推測される。また、130%自然条件に対する130%修正条件で、殿部上昇時における体幹股関節屈曲の角度減少と角速度増大、そして第1相および全動作時間の短縮は、脳卒中片麻痺患者における130%での左右対称座位姿勢における立ち上がり動作が、運動量方略優位による効率の良い立ち上がり動作を呈している可能性を示唆したとも考えられる。脳卒中片麻痺患者では主に非麻痺側を優位に使用した立ち上がり動作が行われ、この動作の習慣化が麻痺側下肢使用を無意識に避けた状態を生み出し、不安定で効率の悪い動作を生じさせていると言われている。立ち上がり動作のパフォーマンス改善には発症後、早期から積極的な麻痺側下肢への荷重を増加する練習が重要であり、積極的な麻痺側下肢の使用が不均衡な動作を改善することが科学的に証明されている。こういった緒家の報告の中、本研究結果は、脳卒中片麻痺患者においても、立ち上がり動作開始時姿勢の改善を行うことで、バランスが良好で安定した立ち上がり動作獲得の可能性を示唆するものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者の立ち上がり動作能力をある指標のもと論じた報告は数多く見受けられるが、個人レベルで統計学的に比較検討した報告は見受けられない。本研究結果は、臨床場面や在宅場面における日常生活指導をする上で有効性が期待される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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