理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-45
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ポスター発表
キネシオテーピング貼付後の時間経過が等速性筋力に与える影響
佐藤 弘樹成田 大一石渡 朝生佐々木 淳一高杉 愛子谷村 謙伍尾田 敦
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抄録

【はじめに、目的】 近年,スポーツ場面でキネシオテーピング(以下,KT)が頻繁に使用されるようになってきている。KTは.皮膚や筋に近い伸縮性を持ち,靱帯・腱の支持や関節運動の制限・是正などの従来の伸縮性テーピングの効果に加えて,筋膜の調整,筋や皮膚への刺激,循環の改善を通して筋力を向上させると報告されている。その効果の持続性に関しては,KT貼付直後から剥がれるまで効果は持続するとされているが,経時的にKTの効果を検証した報告は渉猟しえない。そこで本研究では,キネシオテーピング)貼付後の時間経過に伴い,筋力がどのように変化するかを明らかにすることを目的とする。【方法】 本研究では健常男性14名の右脚14脚(年齢:22.6±2.2歳,身長:174.0±4.3cm,体重:64.8±7.7kg)を対象とした。KTは,市販されている日東メディカル製のKTを使用した。KTの貼付方法は対象者の右大腿前面(大腿直筋直上)に対して,加瀬の方法に則り貼付した。同一対象者に対し,KT貼付,KT非貼付のそれぞれの条件で膝関節伸展の等速性筋力を測定した。KT貼付,KT非貼付のどちらの条件の測定から実施するかはランダムに設定し,1週間以上2週間未満の間隔をあけて,もう一方の条件の測定を実施した。筋力測定には,バイオデックスシステム4(酒井医療株式会社)を使用した。60 deg/s,120 deg/s,180deg/sの3角速度にて,膝関節の求心性(Con)ならびに遠心性(Ecc)等速性伸展運動をそれぞれ5回実施させ,各角速度におけるConならびにEccの最大伸展筋力を求め,体重比を算出した。この筋力測定は1時間おきに計4回実施した。なおKT貼付では,筋力測定を貼付前,貼付直後(貼付前測定の1時間後),貼付1時間後,貼付2時間後の4回とした。統計解析として,KT貼付ならびにKT非貼付における等速性筋力の違い,ならびに時間経過に伴う変化を反復測定による二元配置分散分析により比較した。各要因のいずれかに有意差が認められた場合,post-hoc比較として,Dunnet検定または対応のあるt検定を実施した。有意水準はすべての検定で5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての対象者には本研究の内容と方法について事前に説明し,研究協力への同意を書面により得た。【結果】 Con60deg/s,Ecc60deg/s,Con120deg/s,Con180deg/sでは,条件・時間要因のいずれにも有意差は認められなかった。Ecc120deg/sではKT非貼付にて1回目と比較して4回目(3時間経過後) に筋力の有意な低下が認められた(P<0.05)が,KT貼付では有意な筋力低下は認められなかった。Ecc180deg/sではKT非貼付にて,1回目と比較して3回目(2時間経過後),4回目(3時間経過後)に筋力の有意な低下が認められた(それぞれP<0.05,P<0.01)が,KT貼付では有意な筋力低下は認められなかった。【考察】 本研究結果から,KT非貼付では速い角速度における遠心性収縮で時間経過に伴い有意な筋力低下が生じているが,KT貼付では時間が経過しても有意な筋力低下は認められず,筋力低下が小さく保たれることが示唆された。遠心性収縮は,求心性収縮に比べ強い筋出力が得られ,さらに遠心性収縮では速い角速度ほどより強い筋出力を発揮すると報告されている。このことから速い角速度に対する遠心性収縮時には,筋に対する負荷が増大し,筋の微細損傷を引き起こしやすいと考えられる。このような筋の微細損傷に対して,皮膚や筋に近い収縮率を持つKTが筋膜を調節し,筋の収縮しやすい状況を維持することで筋力低下を最小限に抑えたと考えられる。また,上述のような筋の損傷は,t細管や筋小胞体の損傷につながり,Ca2+の放出を引き起こし,こわばりが生じると報告されている。さらに筋の微細損傷により放出される炎症物質が侵害受容器を刺激し,筋のこわばりを助長する。このような状況は時間経過に伴い徐々に増強される。KTを貼付することでリンパ還流が改善すると考えられており,リンパ還流の改善がこれらの物質の除去を促進し,時間経過に伴う筋力低下を小さく保たせる要因につながったのではないかと推測される。今後はKTの効果をより明確にするためには血流やリンパなど生体内の変化を明らかにしていくことが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ場面では,「走る」「跳ぶ」「投げる」などの動作時に速い角速度の遠心性収縮が常に必要とされ,KTを貼付することで,より長時間パフォーマンスを維持できる可能性が考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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