理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-S-03
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セレクション口述発表
保存期慢性腎臓病患者の身体活動量の実態
若宮 亜希子平木 幸治堀田 千晴井澤 和大渡辺 敏櫻田 勉柴垣 有吾安田 隆木村 健二郎
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抄録

【はじめに、目的】 慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全や心血管疾患(CVD)の危険因子である。本邦のCKD患者数は成人人口の約13%の1330万人にのぼり,総合的なCKD対策が必要とされている。CKDガイドラインでは,CKD患者の肥満の是正,糖尿病新規発症,高血圧,CVD予防などの観点から,身体活動度の維持が求められている。CKD患者の身体活動(PA)に関するこれまでの報告では,森ら(2001)が血液透析患者の平均歩数を3266歩/日(平均年齢65歳)と報告し,我々は腹膜透析患者の平均歩数を4864歩/日(平均年齢63歳)と報告した。しかし,保存期CKD患者を対象とした報告は極めて少ない。本研究の目的は,保存期CKD患者のPAの実態を明らかにすることである。【方法】 対象は,当院腎臓・高血圧内科外来通院中の保存期CKDstage2-5患者70例(平均年齢67.5歳,男性75.7%)である。我々は対象者を,CKDのstage分類を用いて, stage2(A群), stage3(B群), stage4,5(C群)の3群に選別した。除外基準は,中枢性および運動器疾患を有する患者とした。患者背景として,我々は年齢,性別,Body Mass Index,運動習慣の有無,血液生化学検査値よりヘモグロビン(Hb),血清アルブミン(Alb),C反応性蛋白(CRP)を診療記録より後方視的に調査した。PAの測定には,加速度付きの生活習慣記録機(ライフコーダ®)を用いた。対象者は,本記録機を入浴,就寝時間を除く連続9日間装着し,装着期間中は普段通りの生活を送るよう指示された。PAの指標として,我々は初日と最終日を除いた7日間の1日当たりの平均歩数(歩/日),平均活動時間(分/日),平均運動量(kcal/日)を用い,各群におけるこれらの平均値を算出した。また,先行研究に基づき,活動時間(分/日)を,低強度(<3Mets),中等強度(3-6Mets),高強度(>6Mets)別に算出した。統計解析は,χ二乗検定,一元配置の分散分析を,また多重比較にTukey法を用いた。なお危険率5%を有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,当大学生命倫理委員会の承認を得て,対象には説明の後に文書による同意を取得して実施した(承認番号:第1624号)。【結果】 各群の症例数はA群12例, B群41例, C群17例であった。患者背景は年齢,性別, BMI, Alb, CRPに差は認めなかった。運動習慣の有るものの割合はA群, B群, C群の順に 83.3%, 36.6%, 47.1%であり, A群が他の2群に比し有意に高値であった(p=0.02)。Hbは同様に13.3±1.9, 13.1±1.7, 11.4±1.7 g/dlであり,C群が他の2群に比し有意に低値であった(p<0.01)。 保存期CKD患者のPAは,A群, B群, C群の順に, 平均歩数 8878.0±2184.3, 6411.2±2650.5, 5870.7±2439.0歩/日 (p<0.01), 平均活動時間 89.3±29.2, 66.7±27.0, 62.7±25.4分/日 (p=0.02), 平均運動量 264.1±72.1, 176.7±93.5, 132.2±61.8kcal/日 (p<0.01)であり,全ての指標でA群が他の2群に比し有意に高値であった。運動強度別の活動時間は同様に,低強度 58.5±29.2, 48.7±19.9, 48.8±21.8分/日 (p=0.38), 中等強度 31.5±14.5, 17.8±14.2, 12.4±8.1分/日 (p<0.01), 高強度 0.7±0.7, 0.9±1.4, 0.6±1.9分/日 (p=0.70)であり,中等強度の活動時間のみA群が他の2群に比し有意に高値であった。【考察】 保存期CKD患者のPAはstage進行に伴い低下し,stage3以降でその低下は顕著であることが示された。運動強度別の活動時間では,中等強度の活動がstage3以降で有意に低値であり,運動の質も低下していた。この背景として,運動習慣の有るものはstage3以降で有意に少なかった。また,Hbはstage4,5で有意に低く,腎性貧血に伴う易疲労の可能性も示唆される。そして,CKD患者では腎機能の低下に伴い運動機能が低下していることが報告されている。これら運動が習慣化されていないこと,易疲労や運動機能の低下がCKD患者の不活動を引き起こし,PAの低下に関与しているものと推察された。さらに,本結果を「健康日本21」にて,生活習慣病予防や死亡率低下の目標値とされる一日の平均歩数,男性9200歩,女性8300歩と比較した。各群で,対象各々を比較した結果,目標値以上であったものの割合はA群41.7%, B群17.1%, C群5.8%と,stage2が最も高値であった。保存期CKD患者において,生活習慣病予防のため,PAの管理が重要とされている。しかし,目標値に達しているものは全ての群で半数以下であり,特にstage3以降ではごく少数であった。以上より,CKD患者に対するCVD予防など生活習慣病管理の観点から,早期からPA向上に向けた介入が重要であると考える。しかし,本研究は横断研究でありPA向上とCKD進行や,CVD発症との関連性については未だ不明である。【理学療法学研究としての意義】 本研究は保存期CKD患者におけるPAの実態について示した。本結果は,保存期CKD患者に対するPA向上のための,運動指導方策の一助となる可能性がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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