理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-25
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ポスター発表
膝前十字靭帯再建術後における術前・術後筋力の回復の推移について
スポーツレベル別の検討
田中 龍太今屋 健藤島 理恵子中山 誠一郎遠藤 康平川村 麻衣子戸渡 敏之
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抄録

【はじめに】膝前十字靱帯(ACL)再建術後の膝筋力は健患比を用いて評価することが多い。しかし、健患比は健側筋力に対する相対的な患側筋力の評価となるため、純粋に患側筋力が回復したかは不明である。このため、健側、患側それぞれの筋力のピークトルク体重比(体重比)の推移を追う必要がある。また、スポーツレベル別に筋力の回復経過を辿った報告は少ない。そこで今回、症例をスポーツレベルで分類し、術前から術後の健側、患側の体重比と健患比の回復の推移を調査したので報告する。【方法】対象は2006から2009年に当院で半腱様筋・薄筋腱によるACL再建術を施行した311例、男性135例(27.6±7.2歳)、女性176例(25.2±7.9歳)である。当院ではスポーツレベルを、レベル0:スポーツ活動なし、レベル1:趣味レベル(下級)、レベル2:趣味レベル(上級)、レベル3:地方(県)大会レベル、レベル4:全国大会レベル、レベル5:トップレベルの6段階に設定している。本研究ではスポーツレベルをカテゴリー1(C1:レベル0、1)、カテゴリー2(C2:レベル2、3)、カテゴリー3(C3:レベル4、5)の3群に分類し比較した。内訳は、C1(男性67例、女性72例)、C2(男性55例、女性81例)、C3(男性13例、女性23例)であった。筋力測定はBiodex System3を用い60deg/secで行った。術前、術後5ヶ月(5M)、術後8ヶ月(8M)で、膝伸展筋力(Q)、屈曲筋力(H)の健側および患側における体重比を計測した。以上の項目において男女各々のカテゴリーでQ、Hの、1)術前、術後の健側体重比の平均値の推移、2)術前、術後の患側体重比の平均値の推移、3)術前、術後の健患比の推移を検討した。統計にはrep ANOVAと多重比較法(Tukey)を用いて平均値の差の検定を行った。データ解析は、統計ソフトDr.SPSS IIを使用し、有意水準はp<0.05とした。【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会の承認を受けて行った。【結果・男性】1)健側Qは、C1では術前より5Mおよび8Mで有意に増加し、C2では術前より8Mで有意に増加した。C3では統計上変化がなかった。健側HはC1、C2共に術前より5Mおよび8M、 5Mより8Mで有意に増加し、C3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。2)患側Qはどのカテゴリーも術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。患側Hは健側同様、C1、C2共に術前より5Mおよび8M、 5Mより8Mで有意に増加し、C3は術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。3)健患比Qは、C1では術前より5Mで有意に減少し、5Mより8Mで有意に増加した。C2では術前より8M、5Mより8Mで、C3では5Mより8Mで有意に増加した。【結果・女性】1)健側Qは全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8Mで有意に増加した。健側Hは全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8M、5Mより8Mで有意に増加した。2)患側Qは、C1、C2では術前より5Mおよび8M 、5Mより8Mで有意に増加し、C3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。患側Hは健側同様、全てのカテゴリーで術前より5Mおよび8M 、5Mより8Mで有意に増加した。3)健患比Qは、C1では5Mより8Mで、C2とC3では術前より8M、5Mより8Mで有意に増加した。健患比Hは、C1、C2では術前より8Mで有意に増加したが、C3では統計上有意な差はみられなかった。【考察】我々は以前、ACL再建術後の体重比の回復は、健側、患側共に術前の体重比と高い相関があり、健側、患側の体重比を評価することの重要性を報告した。そこで今回、健側、患側の体重比はスポーツレベルによって回復推移が異なり、スポーツレベルが高いほど回復が早く、低いほど遅いのではないかと考え本研究に至った。しかし今回の結果からはスポーツレベルを問わず、健側、患側の体重比は術前から時期を追うごとに順次回復する傾向がみられた。健患比は健側体重比の相対的な患側の割合であるため、患側の回復を絶対値で評価できないが、健側と患側のバランスを評価するには良い。健患比が減少しても患側体重比は増加している場合もあるため、ACL再建術後の筋力評価として、健側、患側の体重比並びに、健患比を評価していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後はスポーツレベル別での体重比の差を比較検討し、本研究と併せ、スポーツレベル別の体重比の目標設定を可能とし、スポーツ復帰への指標を提案していきたい。

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© 2013 日本理学療法士協会
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