理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-05
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一般口述発表
市民マラソンランナーは理学療法士に何を求めるか
-ニーズに沿ったメディカルサポートの展開にむけて-
上甲 大河中尾 聡志山中 祥二吉田 宏史
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抄録

【はじめに、目的】 近年、健康志向の高まりから一般市民参加型のマラソン大会が多く開催されている。愛媛県理学療法士会スポーツ支援部では、平成24年2月5日に開催された第50回愛媛マラソン大会のメディカルサポート(以下、MS)を実施した。MSは、25.4km(以下、25救護所),31.9km(以下、31救護所),37.1km(以下37救護所)救護所およびゴールにて処置を希望する一般市民ランナー(以下、利用者)を対象とし、理学療法士がストレッチ・マッサージ・テーピングなどの処置を実施した。ランニング障害についての研究・報告は散見するが、競技中の症状についての報告は少なく、競技中の障害特性を明らかにする事はランナーのニーズに沿ったMSを展開していく為に有用である。利用者がどのような症状を訴え救護所を利用したかについて調査を行ったので若干の考察を含め報告する。【方法】 利用者のうち、下肢症状の記録のあった420名1272部位を対象とした。方法は、走行距離と症状数についてSpearmanの順位相関係数の検定にて相関係数を検定した。各関節および各筋別の症状数の差についてKruskal-Wallis testを用いて差を検定し、関節別では膝関節・足関節・股関節について、筋別の症状数では10%以上の症状数を認めた下腿三頭筋・ハムストリングス・大腿四頭筋に対しSteel-Dwass法を用いて各群間での差を比較した。なお、統計学的有意水準は5%未満に設定した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、MS実施時に主旨を説明し、同意を得られた。また、情報は個人が特定できない様に配慮して調査を行った。【結果】 各救護所およびゴールでの利用者数および症状数は、25救護所78名165部位(2.12部位/1人)、31救護所122名310部位(2.54部位/1人)、37救護所102名362部位(3.55部位/1人)、ゴール118名435部位(3.69部位/1人)で、距離と症状数にやや相関を認めた(r=0.35 p<0.01)。症状部位は筋症状398名1111部位、関節症状73名99部位であった。関節別の症状数は、膝関節54名72部位(49.3%)、足関節18名23部位(15.8%)、股関節3名4部位(2.7%)で、膝関節・足関節・股関節間にそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。筋別の症状数では、下腿三頭筋234名414部位(52.0%)、ハムストリングス167名288部位(36.2%)、大腿四頭筋131名225部位(28.3%)で、下腿三頭筋は、ハムストリングスおよび大腿四頭筋間(p<0.01)に、ハムストリングスは大腿四頭筋に有意差を認めた(p<0.05)。【考察】 走行距離に相関して症状数も増加を示した。筋は過度の収縮の繰り返しにより局所の血流障害や発痛および痛覚増強物質の産生が生じ、疼痛や筋攣縮を発生させる。関節においても繰り返す荷重ストレスに対し炎症による疼痛が生じる。利用者はこれらの病態により症状を訴えたと考えられる。一般市民ランナーのランニング障害は膝関節や下腿部に多いと報告されており、本調査においても関節症状では膝関節に、筋症状では下腿三頭筋が他部位に比較し有意に多かった。一般人は競技者と比較し立脚期の膝関節屈曲角度が大きく、立脚時間が長いと報告されている。また、走行速度が遅い程重心の上下移動が大きくなると述べられており、このことは膝関節周囲の抗重力筋の活動時間の延長と膝関節への荷重ストレスの増大につながると考えられる。足関節は軽度底屈位で接地、支持相前半で背屈、蹴りだし時で底屈位を示し、この角度変化の大きさと荷重および推進力に影響することから、下腿三頭筋が有意に多かったのではないかと考えられる。筋疲労が生じ、筋の収縮能が低下した状態で走行を続けることによる関節症状の出現も推察され、ランニング中のセルフケア法の啓発は有用であると考える。膝関節周囲筋と膝関節症状の相互関係や、走行距離との関係についての解明は今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 今回、マラソン大会に出場した一般市民ランナーを対象とした調査を行った。理学療法の対象となる症状が多いという知見が得られた。一般市民に対する理学療法(士)の啓発や、市民マラソン大会をはじめとした社会貢献活動拡大の一助となると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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