理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-019
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口述発表(特別・フリーセッション)
他動運動時の脳磁界反応について
大西 秀明大山 峰生相馬 俊雄菅原 和広桐本 光田巻 弘之村上 博淳亀山 茂樹
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キーワード: 脳磁図, 他動運動, 運動感覚
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抄録

【目的】
他動運動時には大脳皮質体性感覚野だけでなく一次運動野も活動することが報告されているが(Terumitsu M, et al. Neuroreport, 2009.),活動のタイミングなど不明な点が多いのが現状である.我々は随意運動時の大脳皮質活動に関する研究を継続しており,運動直後の皮質活動が運動感覚を反映しているものの,その活動部位は一次運動野の可能性が高いことを報告してきた(Onishi H, et al. Clinical Neurophysiology, 2010).本実験では,他動運動時における脳活動の時間的変化を明らかにすること,随意運動時における運動感覚反応と他動運動時における運動感覚反応とが同様であるかを明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は健常男性6名(36.5±8.9歳)であった.脳活動の計測には306チャネル全頭型脳磁界計測装置Neuromag(Elekta,Finland)を使用した.脳磁界計測課題は,(1)自己ペースでの右示指伸展自発運動と,(2)右示指伸展他動運動とした.自発運動および他動運動ともに5秒に1回程度の頻度で50回程度実施した.脳磁界データは示指先端が動き出す1500ミリ秒前から1000ミリ秒後までを解析対象としてオンラインで加算平均した.また,脳磁界波形は1000Hzのサンプリング周波数でデジタル化し,0.5Hzから50Hzのバンドパスフィルタ処置を行った.データの解析には,電流発生源推定ソフトウェア(Elekta,Finland)を使用し,自発運動および他動運動とも著明な振幅が観察された際のピーク潜時と電流発生源を求めた.電流発生源の推定には等価電流双極子を用い,推定された電流源の信頼性を示すGoodness of fit値が90%以上のものを採用し,推定された電流発生源は各被験者のMRI画像に重畳した.さらに,電流発生源を比較するために,正中神経を電気刺激した際に観察される電流発生源を空間的位置の基準とした.また,示指伸筋の筋電図もあわせて導出し,他動運動時に筋活動が認められていないことを確認した.
【説明と同意】
本研究は当大学倫理委員会の承認を得て実施した.また,全ての対象者には,実験内容および予測される結果について書面にて説明し同意を得た.
【結果】
自発運動時に観察される運動関連脳磁界反応は,全ての被験者の左感覚運動領域で著明に観察された.運動関連脳磁界波形の中で最も振幅が大きかったのは,運動直後に観察される運動誘発磁界第1成分であり,ピーク潜時は30.1±4.8ミリ秒であった.一方,他動運動時においても,左感覚運動領域で著明な磁界反応が観察され,振幅が最も著明であったのは他動運動開始後37.6±8.0ミリ秒であった.電流発生源をみると,自発運動直後の運動誘発磁界第1成分は正中神経刺激後約20ミリ秒後に観察される波形(N20)の電流発生源よりも内側に位置していた.一方,他動運動時に最も強く反応した電流発生源は,N20の電流発生源とほぼ同様であり,運動誘発磁界第1成分よりも外側であった.
【考察】
自発運動直後の運動誘発磁界第1成分は運動開始後約30ミリ秒で観察されたが,我々の実験システムでは自発運動時に示指先端が動き出すより約40ミリ秒前に筋活動が起こっているため(Onishi H, et al. Brain Research, 2006),筋活動開始から約70ミリ秒後に運動誘発磁界第1成分が観察されたと考えられる.一方,他動運動時には筋活動が認められないため,感覚受容器が刺激されてから脳磁界反応までが約37ミリ秒であったことを示している.電流発生源をみると,他動運動時の電流発生源は運動誘発磁界第1成分よりも外側に位置しており,一次体性感覚野(3b野)の活動を示しているN20の電流発生源とほぼ同様であった.これらの結果は,自発運動直後の運動誘発磁界と他動運動直後の体性感覚誘発磁界とは異なる反応であることを示している.自発運動直後に観察される運動誘発磁界第1成分は,主動作筋の筋紡錘を受容器とした反応であり,4野の活動であると考えられているが(Onishi H, et al. Clinical Neurophysiology, 2010),他動運動直後の脳活動は皮膚または関節・靱帯を受容器とした反応であり,一次体性感覚野の3b野の活動を反映している可能性が高いこと考えられる.
【理学療法学研究としての意義】
他動運動や自動運動を治療手段の一つとする理学療法にとって,自発運動時や他動運動時の運動感覚機能を明らかにすることは理学療法の発展に寄与するものと考えられる.
【謝辞】
本研究は文部科学省科学研究補助金・基盤B(22300192)および新潟医療福祉大学・研究奨励金の助成を受けたものである.

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© 2011 日本理学療法士協会
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