理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-009
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口述発表(特別・フリーセッション)
静止立位と歩行における骨盤回旋角度の関係
岡田 裕太
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キーワード: 動作分析, 骨盤回旋, 左右差
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抄録

【目的】健常成人男性の静止立位における骨盤回旋角度が歩行における骨盤回旋角度の左右差に及ぼす影響を運動学的に検討することを目的とした。
【方法】対象は健常成人男性22名とした。計測機器には三次元動作解析システムを使用し、各対象者には臨床歩行分析研究会が提唱するDIFF形式に対応する部位および左右上前腸骨棘(以下ASIS)、左上後腸骨棘(以下PSIS)、左右烏口突起(以下PC)、胸骨頸切痕(以下CLAV)に赤外線反射マーカーを貼付した。左右ASISと左PSISで骨盤セグメント、左右PCとCLAVで体幹セグメントを定義した。なお、マーカー貼付はすべての対象者に対して同一検者がおこなった。計測課題は、静止立位と歩行とした。静止立位の計測肢位は、計測空間の進行方向上に定めた標点を注視した安静状態とした。歩行計測においては、ケーデンスを114歩/分に設定し、計測前に十分に練習をおこない歩行に慣れてから裸足にて計測をおこなった。歩行における骨盤は、必ずしも計測空間内で決められた方向に移動せず蛇行しながら進行方向へ移動するため、骨盤の左右回旋運動における基準線を示すことは難しい。そこで今回、骨盤の左右回旋運動の基準線を進行方向に対する垂直線とし、進行方向に対して時計まわりを右回旋、反時計まわりを左回旋とした。なお、進行方向の決定は水平面上における身体重心の軌跡より左踵接地期(以下HC)と次の左HCの重心位置を算出し、結んだ直線方向とした。定常歩行を計測するため、歩き始めの3歩目以降を分析対象とし、歩行1試行において骨盤と体幹の左右回旋角度を各2データずつ算出し、5試行10データで検討をおこなった。ケーデンス、歩行速度、COG位置は臨床歩行分析研究会のソフトウェアDIFF gaitを用いて算出した。統計処理においては、各対象者の歩行における骨盤の左右回旋角度を比較するために対応のないt-検定を用いた。さらに、静止立位と歩行における骨盤回旋角度の関係を知るためにピアソンの相関係数を用いた。使用ソフトにはSPSS14.0とExcelを用い、有意水準は1%未満とした。
【説明と同意】本計測にあたり全対象者に対して本研究の趣旨を説明し、本人の承諾を得た上で計測をおこなった。
【結果】すべての対象者において、静止立位における骨盤回旋角度は必ずしも進行方向に対して垂直であるとは限らなかった(-0.4±2.6)。また、歩行における骨盤回旋角度は対象者22名中14名において左右差が認められた。絶対空間における静止立位の骨盤回旋角度と歩行の骨盤回旋角度の左右差には、負の相関が認められた(γ=-0.68)。つまり、静止立位の骨盤回旋角度は歩行の骨盤左右回旋角度の優位側に対して逆方向に位置した。静止立位の体幹に対する骨盤回旋角度と歩行時の体幹に対する骨盤回旋角度の左右差には強い正の相関が認められた(γ=0.82)。つまり、静止立位の体幹に対する骨盤回旋角度は歩行時の体幹に対する骨盤左右回旋角度の優位側に対して同じ方向に位置した。
【考察】多くの研究者により、歩行は左右対称におこなわれていると考えられているが、Murrayら(1964)は歩行における骨盤の回旋運動には個人差があると報告している。そこで今回、歩行における骨盤の回旋運動を左右に分け、骨盤の回旋運動が左右対称におこっているのかを確認し、静止立位と歩行における骨盤回旋運動の関係を検討した。骨盤は、股関節と体幹の間に位置しており、両セグメントのアライメントに影響を受ける。静止立位の骨盤回旋角度と歩行の骨盤左右回旋角度の優位側は、股関節に対して同じ方向に回旋運動が作用するため一致すると予測しており、体幹に対する骨盤回旋角度においても同様の予測をしていた。しかし、体幹に対する骨盤回旋角度は静止立位と歩行において同じ方向に位置していたが、絶対空間における骨盤回旋角度は静止立位と歩行において逆方向に位置した。静止立位における骨盤回旋角度は、股関節と体幹の両方に影響を受けると思われるが、骨盤の上方に位置し身体質量の50%以上を占める体幹のアライメントに大きな影響を受けたためであると考える。
【理学療法学研究としての意義】臨床において、効率的な歩行の動作分析には正確な歩行の動作観察が必要不可欠である。歩行における骨盤運動は重要であり、特に骨盤の回旋運動は歩行効率に大きく関与すると考えられている。さらに、黒川ら(2010)は骨盤の回旋運動は股関節外転モーメントに影響を及ぼすと述べており、臨床において骨盤の回旋運動を評価することは重要となる。しかし、歩行における骨盤の回旋運動は下肢の矢状面運動に比べ非常に小さいため、動作予測をすることが正確な動作観察の手掛かりとなる。そのため、静止立位と歩行に関係があるか検討することは、正確な歩行の動作観察に役立つと考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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