理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-111
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ポスター発表(一般)
足部アライメントが歩行時の足圧中心の移動に及ぼす影響
若年男性での検討
布野 優香瓜生 玲子里田 由美子中江 徳彦田中 則子小柳 磨毅
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抄録

【目的】
我々は第45回本学術大会において、若年女性における足部アライメントと歩行時の足圧中心(以下、COP)の移動との関係について調査し、足部アーチの低下を示す例では歩行時にCOPが内側に移動することを報告した。しかし臨床上、形態的、機能的に性差を認めることの多い若年男性の足部アライメントが、歩行中のCOPの移動に及ぼす影響は明らかではない。本研究の目的は、若年男性における後足部、中足部、前足部の各足部アライメントが、歩行の立脚期におけるCOPの移動に及ぼす影響について検討することである。
【方法】
対象は健常若年男性59名(年齢20.6±1.6歳、身長171.4±5.1cm、体重62.5±8.8kg)で、計測肢は利き足とした。足部アライメントとして、後足部は踵骨傾斜角(踵骨と床からの垂線とのなす角)、中足部は舟状骨高、前足部は第1中足骨底屈角(床面と第1中足骨長軸とのなす角)を、それぞれ非荷重位(椅座位)と荷重位(片脚立位)で計測した。踵骨傾斜角は床面からの垂線を基準に外反方向を正、内反方向を負とした。舟状骨高の非荷重位と荷重位の差からアーチ沈降度を算出した。各アライメントについて、それぞれ平均値と標準偏差を用いて上位と下位の対象者を抽出し、大きい群と小さい群の2群に分類した。足圧分布測定システム(F-scan:Tekscan社製)を用いて10mの自然歩行における立脚期の足圧分布を測定した。立脚期の荷重圧グラフより1)踵接地から第1峰、2)第1峰から谷、3)谷から第2峰、4)第2峰から爪先離地までの4相に分け、各相のCOP移動距離を計測した。尚、COP位置の算出は前方へは踵部最後部からの距離、側方へは最内側部からの距離とし、足長および足幅で標準化した。側方移動距離は外側方向を正、内側方向を負とした。立脚期各相のCOP位置および移動距離を、各足部アライメントの2群間で比較した。統計学的検定には、Mann-WhitneyのU検定を使用し有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には事前に本研究の説明を行い、協力の同意を得た。
【結果】
(1)足部アライメント:(1)踵骨傾斜角;非荷重位-5.0±3.3°(大-0.2±1.2°小-9.9±1.2°)、荷重位-7.8±3.6°(大-1.8±1.5°小-14.2±1.2°)、(2)アーチ沈降度;5.3±3.4mm(大11.3±2.3mm 小0.4±1.0mm)、(3)第1中足骨底屈角;非荷重位29.1±3.3° (大34.6±1.8°小23.9±1.3°)、荷重位28.4±2.9°(大33.1±1.2°小24.3±0.8°)であった。
(2)COP移動距離の2群間比較:アーチ沈降度の大きい群は小さい群と比較して、第2相でCOPの内側移動距離が有意に大きく(大-4.3±5.4% 小4.8±7.0%)、第4相ではCOPの内側および前方移動距離が有意に小さかった(内側:大-7.3±7.4% 小-17.3±6.2%、 前方:大7.6±7.1% 小21.4±13.5%)。第1中足骨底屈角(非荷重位)の小さい群は大きい群と比較して、第4相でCOPの内側移動距離が有意に大きかった(大-4.3±10.1% 小-13.5±7.7%)。
【考察】
立脚期の荷重圧グラフは概ね床反力Z成分に相当するため、それぞれ第1相を立脚初期、第2相を立脚中期前半、第3相を立脚中期後半、第4相を立脚後期ととらえ、本研究における若年男性結果と、昨年の先行研究における若年女性の結果をあわせて考察した。
アーチ沈降度の大きい群は立脚中期前半においてCOPの内側移動が大きく、若年女性の中足部アーチの低下例が立脚中期後半においてCOPが内側に移動していたことと類似していた。しかし、立脚後期では若年男性のCOPの内側および前方移動距離は有意に小さく、女性とは異なった結果を示した。これは足部の剛性低下に対して若年男性では足関節底屈筋や足趾屈筋などの筋力が補償機能として作用したためと考えられた。若年男性における第1中足骨底屈角の小さい群は立脚後期にCOPの内側移動が大きかったのに対して、若年女性では立脚中期後半で内側移動が大きく、COP移動の時期が異なっていた。これは若年男性が母趾屈筋の作用によって前足部の剛性低下を補償していたためと考えられた。
今回の結果より、若年男性と女性では歩行における姿勢制御の方策が異なると考えられた。従って、今後は歩行中における足部の動きや筋活動についても検証する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より、若年男性において後足部、中足部、前足部のアライメントが歩行時のCOPに及ぼす影響は女性と異なることが明らかとなった。足部アーチの低下を認める症例に対してテーピングや足底挿板を用いる際には、性差にも配慮した処方が必要であると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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