理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-109
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ポスター発表(一般)
筋疲労時の一次運動野の活動状態
握力測定時における半球間抑制の状態
藤本 昌央藤田 浩之冷水 誠前岡 浩後藤 桂森岡 周
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キーワード: 筋疲労, fNIRS, 一次運動野
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抄録

【目的】
近年まで筋疲労のメカニズムとして,いわゆる末梢性モデルである乳酸蓄積によって,疲労感が生じると考えられてきた.しかしながら,動物実験において乳酸濃度と運動や活動レベルに相関がない(Nakamura 1994)ことなどから,中枢神経系における筋疲労についての解明が必要なものとなっている.
今回,臨床上簡易に使用される握力計を用いて,最大筋力の発揮を連続的に行わせることで,疲労を発生させ,その際の脳活動を機能的近赤外分光法(fNIRS:functional near-infrared spectroscopy)を用いて測定した.

【方法】
対象は本研究に同意を得た健常成人6名(男性:2名,女性:4名,平均年齢±標準偏差:22.3±6.7歳)とした.椅子座位にて右手での最大握力把持の反復を課題とした.握力把持にはスメドレー式デジタル握力計(竹井機器工業製)を使用し,反復による握力(kg)変化を計測し疲労による変化を捉えた.脳活動の状態における計測には,NIRS 脳計測装置であるFOIRE 3000(島津製作所製)を使用した.頭表におけるファイバー(送受光プローブ)の設置については国際10-20法に基づき,Czの前方から両側前頭葉背側部までを全体的に覆うように全 40 チャンネルを設定した.実験デザインとしては毎回,最大握力を発揮させ,その筋力を 60 秒保持するように命じた.最大握力を維持させた後に安静 70 秒間を与えた.これを1試行として10回連続で実施した.脳活動の解析指標としては酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度長の変化とし,握力測定中における平均値の比較としてマンホイットニーのU検定を用いた.さらにFusionソフト(島津製作所製)を用いて,マッピング後MRI画像へ重ね合わせを行い,oxy-Hbが増加した部位の推定を行った.また,握力計における筋疲労の指標としては全ての被験者の筋力の平均値を求め,回数とのピアソンの相関係数を用いた.

【説明と同意】
全被験者には本研究について説明し、同意を得た.

【結果】
全被験者における平均握力値は,回数を重ねるたびに減少が認められ強い相関を認めた(r=-0.92,p<0.01).最大握力時における両側一次運動野は,1試行目から3試行目まで安静時と比較すると有意な活動の増加を示した(p<0.001).また,握力を測定している同側になる右一次運動野の指の領域になる外側から強い活動を示し,さらに右掌から右肩へと順に強い活動を示した.これに対して握力を実施している右手と対側になる左一次運動野の活動は,右側よりも活動は少ない結果となった.さらに,右手指の指尖の領域になる左一次運動野は,2,3試行目をピークに徐々に活動の低下を認め,最終的には,安静時よりも有意に活動の減少が認められた(p<0.001).
両側一次運動野を比較すると指先の領域になる一次運動野では,右脳が有意な活動の増加(p<0.001)を認め,これは10試行中全てに認められた.これに対して,左右の一次運動野における左掌から肩にかけての領域では,1から3試行目では有意な増加は認められなかったが,4試行以降では,すべての一次運動野における活動は右一次運動野が左一次運動野に対して有意な活動の増加を認めた(p<0.001).

【考察】
一般的に一次運動野から筋肉までの経路は、延髄での錐体交叉によって、対側支配である。近年,手の運動制御に関わる前頭連合野において非対称性の同側神経支配があり,一次運動野は相互に対側抑制が生じていると報告されている(半球間抑制仮説).今回の実験では,握力を発揮するため左一次運動野における左掌~肩の領域の活動が高まりをみせた.しかし,左手の領域でも指先の領域と考えられる左一次運動野の領域については活動の減少が認められた.これに対して,右手と同側になる右半球の一次運動野が著明な強い活動をみせ,握力に関与しない指先の領域になる左一次運動野に対しては,抑制に働いたとことが示唆された.以上のことから,最大握力発揮時の脳活動は,左側の半球のみならず,両側の一次運動野の領域が右手の最大筋力を維持させようと作用することが認められた.

【理学療法学研究としての意義】
臨床上で利用される握力検査の際には、運動を実行する手と対側の一次運動野のみならず、同側の一次運動野も活動が認められることが示唆された。

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© 2011 日本理学療法士協会
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