理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-107
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ポスター発表(一般)
内側型変形性膝関節における両脚スクワット運動中の膝キネマティクス:3D-to-2D Registration法
生田 太蒲田 和芳宮路 剛史木寺 健一米倉 暁彦千葉 恒進藤 裕幸
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抄録

【目的】
変形性膝関節症(膝OA)の存在率は65歳以上の高齢者において推定13%である。膝OAの治療法として用いられている外科的療法、薬物療法、理学療法などは、いずれも症状改善を得る可能性はあるが、進行を遅らせるというエビデンスはない。膝OAは社会的、経済的負担の原因となり、その発症・進行の予防が重要である。
膝OA発症および進行の危険因子として多数の生体力学的、生化学的な因子が指摘されてきた。膝OAが内側コンパートメントで生じた後に内反アライメントへ移行する構築学的変化を理解する上で、生体力学的なメカニズムを排除することはできない。近年の高精度の膝関節運動解析(Saariら 2005、Hamaiら 2009)により、OA膝のキネマティクスの特徴として大腿骨に対して脛骨は外旋位であり、膝関節最終伸展域での脛骨外旋運動が消失する点が解明されてきた。しかし、膝OAの進行に伴うキネマティクスの変化は報告されていない。そこで、本研究の目的は、膝OAの病期進行に伴う両脚スクワット運動中の膝キネマティクスの変化を明らかにすることとした。
【方法】
OA膝の選択基準は、一次性膝OA、50歳から79歳、スクワット運動が行える者、とした。健常膝の選択基準は、20歳から40歳、膝関節および下肢に疼痛や運動制限の原因となるような異常がないこと、とした。健常膝9 膝(9名:男性9名;健常群)、OA膝16膝(10名:男性3名、女性7名)が同意書に署名した。OA膝の重症度は、Kellgren–Lawrence分類のgrade 1:5膝(grade 1群。以下、同様)、grade 2:6膝、grade 3:5膝であった。
動作課題は両股関節外旋位での、両脚でのワイドベーススクワットとし、膝関節の内側から一方向X線透視撮影を行った。膝キネマティクスの解析にはBanks(1996)が開発した(3D-to-2D Registration法)を用い、CTによる三次元骨モデルと透視画像上の骨の輪郭とを専用プログラム(JointTrack)上にて適合させ、各骨の空間位置とオリエンテーションを得た。その後、当研究室にて開発した解析ソフト3D-JointManager(GLAB社)を用い、Cardan angleによる関節キネマティクスおよび近接エリアについての分析を行った。
統計学的検定には反復測定二元配置分散分析、post-hoc testにはDunnett's法を用い、有意水準をp<0.05とした。
【説明と同意】
研究内容に関する十分な説明の後、ヘルシンキ宣言に基づき作成され、長崎大学倫理委員会で承認された同意書への署名により同意を得た。
【結果】
OA膝のgrade 2群がgrade 1群と比較し、膝関節屈曲25°から伸展域で脛骨が大腿骨に対して外旋位であった(p<0.05)。同様に大腿骨外側顆・脛骨外側顆の接触点は屈曲25°から伸展域で前方に編位していた(p<0.05)。一方、大腿骨内側顆・脛骨内側顆の接触点には有意差はなかった。また、健常群とgrade 3群には全てにおいて有意差がなかった。
【考察】
本研究の結果、OA膝の重症度がgrade 1からgrade 2へ進行する段階で、膝関節最終伸展域において脛骨が外旋位となっていた。当研究室ですでに報告したレッグプレスを動作課題としたキネマティクスでは、OAの初期段階の脛骨外旋化は深屈曲域において認められた。屈曲域と伸展域のいずれが早期に外旋位に変化するのかを解明することは、膝OAの進行過程におけるスクリューホーム運動の破綻の進行を理解する上で重要である。また、リハビリテーションや予防法を確立する上でも、正常なスクリューホーム運動を維持する上で重要なヒントを与えてくれる。この点については、今後サンプルサイズを増やし検証を続ける必要がある。
本研究の限界は、サンプルサイズ不足、スクワット動作中の代償運動混入の可能性、単純レントゲン画像による病期分類の再現性、などが含まれる。これらの影響は、今後サンプルサイズの増大に伴い相対的に低下すると考えられる。したがって、今後サンプルサイズを増やした分析を進める上で早計な結論を導くべきではないと考える。以上より、本研究の結論としては、「OA膝の重症度がgrade 1からgrade 2へと進行する段階で、膝関節最終伸展域において脛骨外旋化が生じる可能性がある」とする。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果、OA膝のgrade 2はgrade 1と比較し、荷重位における膝関節最終伸展域で、有意に脛骨が外旋位となることが示唆された。この結果は、膝OAのリハビリテーションや予防法の確立を進める上で、正常なスクリューホーム運動を維持することの重要性を示唆するものであり、さらに幅広い検証が必要である。

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© 2011 日本理学療法士協会
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