理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-097
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ポスター発表(一般)
斜面路での生体力学的歩行分析
西山 徹野坂 利也乾 公美
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キーワード: 歩行, 斜面路, 動作解析
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抄録

【目的】
日常生活には平地歩行以外にも様々な歩行を要求される場面がある。近年では平地での歩行分析のみならず、斜面路における歩行分析も行なわれ始めているが、その報告数は少ない。また、これらの研究は勾配が急であり、日常生活場面の歩行路を反映しているとは考えにくい。よって本研究では、日常生活で求められる勾配での斜面路歩行分析を行い、その特徴を検討することを目的とした。
【方法】
対象者は、歩行を制限する整形外科的疾患等の既往や徴候を有しない健常男性10名(平均年齢23.6±2.5歳、平均身長170.2±7.6cm、平均体重63.8±12.7kg)とした。
歩行路には床反力計BP400600(AMTI社)4台、6台の赤外線カメラを有する3次元動作解析装置VICON(Oxford Metrix社)を使用した。斜面路は、床反力計上に斜度7度の板を設置した。各歩行路にて平地歩行・斜面路歩行(上り、下り)共にそれぞれ3回施行、計9回の測定を行った。
測定項目は、各歩行条件に対して、3次元動作解析装置の空間座標データより各関節(股関節・膝関節)の関節角度値を測定した。また、空間座標データと床反力データを用いて、各関節モーメントを算出した。各項目は、各々の歩行条件にて3回実施した測定の代表値を使用した。
平地と斜面路上り、及び下り歩行時の各項目の統計学的処理は、1元配置分散分析によって行った。また、有意差がある項目についてはその後の検定としてtukeyの多重比較検定を行った。有意水準は、p<0.05とした。
【説明と同意】
対象者に対して、本研究の目的、内容、予測される危険性などを説明したうえで、本研究に参加することの同意を書面にて取得した。また、本研究は、札幌医科大学倫理委員会にて承認を受け実施した(承認番号21-3-4)。
【結果】
関節角度
平地歩行と比較して、立脚終期の股関節伸展角度は、斜面路歩行(上り・下り)で有意(p<0.01)に小さかった。また、遊脚期での股関節屈曲角度は、斜面路上り歩行において有意(p<0.01)に大きく、斜面路下り歩行においては有意(p<0.01)に小さい結果となった。立脚初期の膝関節屈曲角度は、斜面路上り歩行において、平地歩行と比較して有意(p<0.01)に大きかった。
関節モーメント
平地歩行と比較して、斜面路上り歩行では、股関節屈曲ピーク値が有意(p<0.01)に小さく、股関節伸展ピーク値、 膝関節屈曲ピーク値は有意(共にp<0.01)に大きい値となった。また、斜面路下り歩行では、股関節伸展ピーク値、 膝関節屈曲ピーク値は有意(共にp<0.01)に小さく、立脚期の膝関節伸展ピーク値は有意(p<0.01)に大きい値となった。
【考察】
関節角度
斜面路上り歩行では、平地歩行と比較して、立脚終期の股関節伸展角度が、有意に小さかった。また、遊脚期での股関節屈曲角度は有意に大きかったことにより、斜面路上り歩行時の股関節は、平地歩行時よりも1歩行周期を通じて屈曲角度が大きい事が示唆された。この事は、斜面路上り歩行時の踵接地位置が反対側の足底位置より高いため、踵接地時にすでに下肢が屈曲位になっているためと考える。それに対して斜面路下り歩行時では踵接地位置が反対側の足底位置より低くなるため、 遊脚期での股関節屈曲角度と、遊脚期での股関節屈曲角度が有意に小さくなったと推察される。
関節モーメント
股関節屈曲ピーク値は斜面路上り歩行で平地歩行と比較して有意に小さかった。これは、上記の通り斜面路上り歩行では股関節の屈曲角度が1歩行周期で大きいため、立脚終期の屈曲モーメント値が小さくなっていると考える。また、斜面路上り歩行時では、立脚期に身体を前方のみならず上方に移動させる必要があるため、立脚初期の股関節伸展モーメントが平地歩行と比較して有意に大きくなっていると考える。それに対し斜面路下り歩行では、身体が前方に移動すると同時に下方にも変位するため、より大きな下肢の伸展モーメントが必要になり、立脚期の膝関節伸展ピーク値が平地歩行と比較して有意に大きく、膝関節屈曲ピーク値が有意に小さくなったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
緩徐な勾配での斜面路歩行分析を行う事で、日常生活の中で要求される屋外での斜面路歩行の情報を得る事が出来る。今後、この斜面路歩行分析を様々な対象者に対して行なう事で、より深い見解が得られると考える。それにより歩行指導方法の効果測定、及び提案を行う事が可能で、本研究がさらに効果的な理学療法を行う上での一助となるものと考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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