理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-051
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一般演題(口述)
NIHSSを用いた早期転帰予測の実用性向上に向けた検討
上野 貴大堀切 康平松谷 実榎本 陽介塚田 陽一強瀬 敏正青木 恭兵富井 美妃中浦 由美子荻野 雅史野内 宏之本多 良彦高松 浩
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抄録

【目的】近年の医療制度下で脳卒中急性期病院には、早期予後予測による適切な転帰先の検討が求められている。そこで、脳卒中急性期における神経症状の重症度の評価法として国際的に使用されているN I H Stroke Scale(以下NIHSS)を用いた転帰予測を考えた。NIHSSは、本邦においても脳梗塞患者に対するt-PA使用時の必須評価法として用いられている。また、退院時Motor FIMとの相関が示唆されており、急性期における予後予測の一指標となるとの報告もある。我々は第44回日本理学療法学術大会にて、初回介入時NIHSSを用いた転帰予測の可能性を報告した。より適切な転帰先の検討を行う上で、仮に自宅退院までの在院日数の予測が可能となれば、回復期病院への転帰のみならず、維持期病院、施設等への直接転帰も視野に入れた転帰予測が可能になると考えた。今回は転帰予測の更なる実用性向上を目指し、NIHSSによる対象の重症度分類を3群から5群へと細分化した上での在院日数の予測という観点から検討したので報告する。
【方法】対象は、平成20年8月1日から平成21年4月30日までに脳血管疾患により当院入院し、7日以内にリハビリテーションが開始された例から除外対象を除いた102例(男性72例、女性30例、年齢68.3±10.0歳)とした。除外対象は、転院までの期間が1ヶ月未満の例、くも膜下出血例、脳幹・小脳病変を有する例、死亡例とした。調査方法としては、初回介入時にNIHSSを評価し、在院日数を調査した。在院日数は、自宅退院例では、調査した日数を週単位へと変換した。他院転院例では、担当PTと研究者の二者間による転院時の予後予測から週単位での在院日数を予測した。在院日数予測に際する自宅退院時のゴール設定は、屋内移動方法は歩行であることとし、最大在院日数を24週とした。次に、初回介入時NIHSSにより対象をA群(0pt≦NIHSS Score≦2pt)、B群(3pt≦NIHSS Score≦6pt)、C群(7pt≦NIHSS Score≦10pt)、D群(11pt≦NIHSS Score≦14pt)、E群(15pt≦NIHSS Score)の5群に分類した。初回介入時NIHSSと在院日数との間の相関分析をSpearmanの順位相関検定にて行った。各群間における在院日数の差の検定をMann-WhitneyのU検定にて行った。統計処理は、SPSS for Windows 10を用い、有意水準を1%とした。各群における在院日数の平均±標準偏差の範囲から週単位での予測在院日数を検討し、その範囲に含まれる割合を算出した。
【説明と同意】本研究の趣旨について本人もしくは家族に説明し、同意を得た上で検討を行った。
【結果】各群の内訳は、A群:33例、B群:22例、C群:11例、D群:12例、E群:24例であった。初回介入時NIHSSと在院日数との間には、高い正の相関(p<0.01)を認めた。各群間の差の検定は、全てにおいて有意差を認める結果となった。予測在院日数として算出した平均±標準偏差の範囲は、A群:1~5週、B群:3~9週、C群:8~19週、D群:16~23週、E群:21~24週となった。その範囲に含まれる割合は、A群:93.9%、B群:63.6%、C群:87.0%、D群:82.6%、E群:83.3%であった。
【考察】初回介入時NIHSSと在院日数との間には、高い正の相関を認めた。よって、初回介入時NIHSSによる在院日数の予測はある程度可能と考えられ、転帰予測の可能性が支持された。正の相関を認めたことから、3群の重症度分類から5群の分類へ細分化することにより、詳細な在院日数の予測が可能と考えられる。また、各群における在院日数の間には有意差を認め、今回の群分けの妥当性が確認された。予測在院日数として算出された平均±標準偏差の範囲に含まれる割合は、当然のことながら高い値を示したが、B群における割合は63.6%と比較的低く、転帰予測の難しさを示唆する結果となった。また、C群においては予測在院日数の範囲が他群と比べ広いという問題点が抽出された。よって、初回介入時NIHSSが3pt≦NIHSS Score≦10ptである例の転帰予測をいかに適切に行うかが、本転帰予測の鍵となることが考えられ、今後の課題となった。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中急性期病院に求められる適切な転帰先の検討は、急性期医療チームによる連携により行われる。急性期医療チームの中で我々理学療法士は臨床の専門家として、早期転帰予測に携わるべきと考える。そのために、画一された評価バッテリーによる詳細な早期転帰予測の可能性を示した本検討は、有意義であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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