理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-043
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一般演題(ポスター)
踵部の冷却と後傾立位位置知覚能
淺井 仁藤原 勝夫
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キーワード: 立位, 知覚, 体性感覚情報
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抄録

【目的】
前後方向での立位位置知覚能は、安静立位位置付近では低く、大きく前・後傾した位置では高い(Fujiwara, Asai et al. 1999, 2003)。また、足底全体を冷却し圧情報の入力を低下させると、安静立位位置付近の知覚能だけが低下する(Fujiwara, Asai et al. 2003)。大きく前・後傾した位置では、足底の局部からの圧情報や、下腿から足部に付着する筋からの情報が位置情報として有効であることが示唆された(Asai, Fujiwara et al. 1990; Asai & Fujiwara 2003)。踵部に注目すると、後傾時に踵圧分布が大きく変化する位置は、踵骨の形状と関係が高い(淺井と藤原2003, Fujiwara, Asai et al. 2005)。それゆえ、後傾時の立位位置の知覚における踵圧情報の機能的な役割を検討することは重要なことと考える。
今回の目的は、健常成人を対象として、後傾立位位置の位置知覚能における踵部からの圧情報の機能的な役割について検討することである。

【方法】
対象は、健常な若年成人10名であった。
今回使用した主な機材は、足圧中心(CFP)位置を測定するための床反力計、コンピューター(2台)、および踵部冷却のための足底冷却装置であった。コンピューターは、位置知覚能の測定時に参照位置をブザー音で告示するためのもの、およびCFP位置を記録し計算するためのものであった。
測定項目は、最後傾位置、および立位位置知覚能の2つであり、それぞれ踵部冷却の有無による2つの条件下(冷却条件、非冷却条件)で実施された。立位位置知覚能は、参照位置を再現する際の参照位置と再現位置との絶対誤差によって評価された(Fujiwara, Asai et al. 1999, 2003)。前後方向の立位位置は、足圧中心位置の足長に対する踵点からの相対距離で表した。参照位置は、45%FL、40%FL、35%FL、30%FL、25%FL、および20%FLの6箇所とした。被験者は、冷却条件毎に各位置をランダムな順番で、休憩をはさみながら7回ずつ再現した。
冷却有無の順番は、被験者毎にランダムとし、両条件の間は最低3日間以上開けた。踵部の冷却は、先行研究(淺井と藤原 1995, Asai & Fujiwara 2003, Fujiwara, Asai et al. 2003)に準じた。すなわち、1°Cでの冷却を継続し、10分毎に踵部の2点閾値を調べ、冷却前の値の1.3倍になった時点で、冷却を継続しながら測定を開始した。
Paired-t検定によって、最後傾位置の冷却による影響、および各参照位置の絶対誤差における冷却の影響が分析された。分散分析により絶対誤差の参照位置による影響が分析された。t検定によって予測値と実測値との違いが分析された。

【説明と同意】
本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認を受けたものであり、被験者に対しては、ヘルシンキ条約に従い、研究の目的、測定方法、安全性についての説明をした。被験者は、これらの説明に同意し、実験参加同意書を提出した後に参加した。

【結果】
最後傾位置は、冷却条件で非冷却条件よりも有意に後方にあった(t=2.89, p<0.05)。立位位置知覚能には参照位置による有意な影響が認められ、後傾位置ほど絶対誤差が小さかった(F(5,45)=10.88, p<0.01)。各参照位置での絶対誤差における冷却の影響は25%FLでのみ認められ、踵部冷却時の絶対誤差が非冷却時のそれよりも有意に大きかった(t=2.89, p<0.05)。また、非冷却時の25%FLでの絶対誤差は、20%FLと30%FLでの誤差より求めた予測値に対して有意に小さかった(t=3.78, p<0.01)。

【考察】
最後傾位置が踵部冷却により有意に後方に移ったことは、先行研究(Asai, Fujiwara et al. 1990)を支持するものであり、この位置の知覚のための知覚参照枠において踵圧情報が貢献している可能性が示唆された。位置知覚能が踵部冷却の有意な影響を受けたのは25%FLのみであり、この位置では加えて非冷却時の知覚能が特異的に高かった。この結果から、踵圧情報は25%FLの位置知覚の参照枠に、特異的に貢献するものと考えられた。25%FLは、後傾時の踵圧分布が大きく変化する位置(Fujiwara, Asai et al. 2005)に近いので、この付近の立位位置では踵圧分布の大きな変化に伴う感覚情報が位置情報として重要であるものと考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
本研究は、後傾立位位置の知覚のための参照機構を探るものである。それゆえ将来的に、この機構の発達および加齢に伴う変化の様相を明らかにすることは、効果的な理学療法を遂行するため、および高齢者の転等問題に新たな視点で切り込むために重要である。

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© 2010 日本理学療法士協会
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