理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-039
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一般演題(ポスター)
屋内・屋外歩行自立者の自立度判定
ウェアラブル姿勢計測・解析システムによる片麻痺2動作歩行評価
貴嶋 芳文桑江 豊湯地 忠彦緒方 匡東 祐二藤元 登四郎関根 正樹田村 俊世
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抄録

【目的】
脳卒中片麻痺歩行の特徴として,杖・装具使用での3動作歩行,2動作歩行が挙げられる.3動作歩行と2動作歩行では,歩行パターンの違いにより,2動作歩行がより歩行スピードが速く,自立度が高い歩行である.歩行自立度判定には,理学療法士(以下,PT)の歩行観察による判断に委ねられる事が多く,経験によって判断基準が異なる可能性がある.そこで今回,臨床場面で自立度判定が難しい,T字杖・プラスチック短下肢装具装着での2動作歩行自立者について,屋内歩行自立者(以下,A群),屋外歩行自立者(以下,B群)の比較を行った.加速度センサにより連続した姿勢変化を計測可能なウェアラブルシステムを用いて,歩行計測を行い,腰部の加速度(運動成分・姿勢成分)に着目し,歩行自立度判定の一助に成りえるか検討した.
【方法】
片麻痺者A群(男性5名,女性1名,左片麻痺3名,右片麻痺3名,平均年齢65.5±10.7歳,Br.stageIV:4名,V:2名),片麻痺者B群(男性6名,左片麻痺2名,右片麻痺4名, 平均年齢49.8±17.5歳,Br.stageIV:3名,V:3名)を対象とした.加速度計は,体幹ユニット一つで構成されている.ユニットに含まれるセンサは容量型3軸加速度センサ(MMA7260Q,Freescale),を使用しており、センサはベルクロで固定している.外形寸法は,40×55×20mm,システムの総重量は230gと軽量で,センサから得られたデータはBluetoothを用いてサンプリング周波数100HzでPCに転送される。課題は,加速度計をA群・B群の腰背部(第2腰椎近傍)装着し,16m平常歩行とし,歩行スピードを計測した.前後3mをそれぞれ加速期・減速期とし,10mを定常歩行として採用した.10m定常歩行から,腰部加速度運動成分・姿勢成分をcut off周波数0.2hzで抽出し,運動成分(前後・左右・垂直方向)のRoot Mean Square(以下,RMS)[g]と,姿勢成分から前後・左右方向の姿勢角度振幅[deg]を算出した.また前後・左右運動成分を,XY平面状に連続波形として視覚的に捉えやすいよう,リサージュを作成し,RMS面積として算出した.統計学的分析は片側T検定を行い,危険率は5%未満とした.
【説明と同意】
本計測の際には,当該施設の倫理委員会の承認並びに対象者自身からのインフォームドコンセントを
得た後,実施した.
【結果】
腰部左右姿勢角度振幅は,A群:1.81±0.87deg,B群:0.95±0.29deg(P<0.01)と,B群において有意に減少していた.腰部加速度運動成分前後RMSは,A群:0.098±0.01g,B群:0.14±0.047g(P<0.01),左右RMSは,A群:0.085±0.027g,B群:0.13±0.029g(P<0.01),垂直方向RMSは,A群:0.073±0.038g,B群:0.17±0.091g(P<0.05)と,B群で有意に増加していた.RMS面積では,A群:0.063±0.035g,B群:0.123±0.06g(P<0.05)と,B群が有意に増加し,視覚的に円の大きさで判断する事ができた.10m歩行速度はA群:0.29±0.12m/s,B群:0.65±0.3m/s(P<0.05)と,B群で有意に向上していた.
【考察】
屋内歩行自立から屋外歩行自立になるためには,歩行スピード向上,歩幅の拡大,歩行率改善,耐久性向上などが必要と考えられる.PTの歩行観察では,B群で歩行スピードが速く,麻痺側下肢支持性高く,両脚支持期の減少により歩幅が増大し,安定性向上しているという評価であった.腰部加速度計による両群間での比較で,B群のRMS面積増加,左右振幅減少という結果が得られ,制御された左右の小さい姿勢変化のなかで,より大きな運動が可能であるという事が分かった.加速度計によりA群・B群のPTによる自立度評価は、妥当な判断であったという,客観的な裏づけとなった.これは,RMS面積により,視覚的に容易に判断する事ができ,面積が大きい程,それを制御できる高い身体機能を持ち得ている可能性がある.よって,屋外歩行自立の判定は,RMS面積の大きさにより判断できる可能性が示唆され,セラピストの自立度判定の裏づけとして,有用であることが分かった.
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺者の自立度判定は,精神機能評価,身体機能評価,動作観察などにより総合的に判断しなければならない.しかし,PTは歩行観察により,自立度を判定する事が多く,経験や個々で判断基準が異なる可能性があり,客観的な評価が難しい.今回の結果から,腰部に一つ加速度計を装着する事で,姿勢角度振幅を算出でき,RMS面積の大きさを視覚的に判断でき,10m歩行速度やバランス検査などと合わせて,臨床場面での客観的な自立度判定が可能になると思われる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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