理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-021
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一般演題(ポスター)
運動負荷方法の検討
自転車エルゴメーターによる下肢運動とBiodexによる体幹運動との比較
芝 寿実子小池 有美大川 裕行
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抄録

【目的】一般に,運動負荷試験では自転車エルゴメーター(BE)やトレッドミルによる下肢運動が運動負荷として用いられている.しかし,我々理学療法士の対象は様々な障害を有していることから,下肢運動による運動負荷試験が実施できない場合もある.これに代わる運動負荷としては,現在のところアームエルゴメーターによるものが報告されているが,それ以外については殆ど述べられていない.今回,上下肢運動の代替として体幹屈伸運動による運動負荷試験を試行し,その妥当性について検討したので報告する.

【方法】対象は,健常男性6名(平均年齢21.3±0.8歳)とした.各被験者に対しBEを用いた下肢運動とBiodex system3(Biodex;メディカルリハ)を用いた体幹運動による運動負荷試験を実施し,それぞれの運動に対する生体反応を比較検討した.
BEによる運動は,十分な安静の後,30Wで3分間のウォーミングアップを行い,1分毎に30Wずつ負荷を増すランプ法により疲労困憊まで実施した.次に,Biodex(角速度60sec/deg)で被験者の体幹筋力を測定した.Biodexによる運動負荷試験は,椅座位での体幹屈伸運動により行った.十分な安静の後に,被験者が楽と感じる負荷で3分間のウォーミングアップを行った.Biodexの角速度は一定の状態で,徐々に体幹屈伸運動の切り替えを速くする方法で疲労困憊まで運動を実施した.なお,連続運動の影響を除外するために,BEとBiodexによる負荷試験は各々別の日に実施した.
安静時を含め運動中の酸素摂取量(VO2)は,呼気ガス分析装置ARCO-2000(アルコシステム)を用いてbreath by breath 法で測定した.あわせて,主観的疲労度を確認した.また,同様に心電図により心拍数(HR)をモニターした.

【説明と同意】被験者には事前に本検討内容を十分に説明し,同意を得た上で測定を実施した.

【結果】最高酸素摂取量(VO2peak)は,BE負荷では52.3±11.9ml/kg・min,Biodex負荷では43.1±5.7 ml/kg・minであった.VO2peakに両負荷方法で有意な差は認めなかった.最高心拍数(HRpeak)は,BE負荷では183.6±8.8bpm,Biodex負荷では168.8±14.2bpmであり,Biodex負荷に比べBE負荷で有意に高かった(p<0.05).両負荷方法ともにVO2とHRには有意な相関関係が認められた(p<0.01).
各被験者の体幹の屈曲運動と伸展運動時の最大トルクとHRpeakには負の相関関係が認められた(r=0.62 ).

【考察】体幹筋を運動負荷試験に用いた場合でも,VO2とHRには有意な相関関係が認められ,体幹筋を用いた運動負荷試験の妥当性が確認できた.
両負荷方法の比較では,VO2peakに差はなかったが,HRpeakに差が認められた.体幹運動ではいきみが生じやすいこと,Biodexを用いた等速性運動には等尺性運動の要素が含まれる傾向があること,そのため運動中には血圧が上昇し,HR上昇に抑制的な要素が働いた可能性があることなどにより, HRpeakに差を生じたと考えている.
また,Biodex負荷では体幹筋のみならず運動に動員される筋肉が上下肢まで広範囲に及ぶ.同一HRに対するVO2はBE負荷に比べBiodex負荷の方が高い傾向がみられ,VO2peakは両負荷で有意な差が得られなかったと思われる.
両負荷法ともHRとVO2には有意な相関関係が認められ,VO2peak では両負荷方法で差を認めていない.しかし,HRpeak には両負荷法で差が認められたことから,少なくとも,体幹筋による運動負荷試験は最大下運動での負荷試験としては有効といえる.今後は,運動中の血圧変動や乳酸値の上昇など,詳細な観察を行い,体幹運動による運動負荷試験の確認を行う.

【理学療法学研究としての意義】一般に,運動負荷試験は自転車やトレッドミルを用いて行われる.今回の体幹運動を用いた運動負荷試験の試みは,運動負荷試験の方法論に一石を投じるものであると期待できる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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