理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-012
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一般演題(ポスター)
下肢筋力評価と姿勢制御の関係
岩本 博行松岡 健野田 修一田代 成美江島 智子江口 淳子藤原 賢吾中山 彰一
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抄録

【目的】
下肢筋力評価は、体力測定を始め、障害後の機能回復の評価、健康づくりのための体力評価に至るまで多くの場面で活用されている。特に歩行、立ち上がり動作などの日常生活活動を行う上で、荷重関節である下肢は重力ストレスと床反力に打ち勝ち立位姿勢を保持する必要がある。特に体重支持における大腿四頭筋の重要性から、山本らは高価な筋力測定専用機器を使用せず、台からの立ち上がり動作という安価で、使用場所を選ばない下肢筋力評価を考案している。さらに、下肢筋力評価と重心動揺、特に静的立位姿勢制御との関係を示す多くの報告が見られるが、動的立位姿勢制御との相関についてはまだ報告が少ない。
そこで、今回は台からの立ち上がり動作を用いた下肢筋力評価と体重あたりの筋質量(%Muscle volume:以下%MV)、および静的・動的姿勢制御の関係性について検討する。
【方法】
対象は平衡機能,下肢・体幹機能に問題のない健常人男性42名、平均年齢は23.5歳±3.92歳、身長平均は171.63cm±3.93cm、体重平均は65.8kg±9.81kgであった。
方法は、下肢筋力評価として、利き脚(ボールを蹴る脚)を立脚側とし、0cm、10cm、20cm、30cm、40cmの各台での腰掛座位から立ち上がり動作を行わせ、0cmを5点、10cmを4点、20cmを3点、30cmを2点、40cmを1点とし評価した。各台に腰掛ける際は、足部を台の端に接触させ、立脚側の下腿を床面と70°となるよう腰掛け坐面位置を調整し、遊脚側は膝関節伸展させ床面に接触しないように指示した。また、両手を胸の前で組んで固定し、体幹はあらかじめ軽度前屈位に保持し、立ち上がる際には、反動を用いて立ち上がったり、組んだ手が外れたり、立脚側が内外側へ偏移しないように指示した。立ち上がりの終了肢位時にバランスを崩さず3秒間保持できた場合を可能と判定した。%MVの測定にはBiospace社製InBody720を用い、8電極式多周波インピーダンス法にて測定し、筋肉量(kg)/全体重(kg)×100を%MVとした。また、重心動揺の測定には、ANIMA社製グラビコーダG‐620を用い、静的姿勢制御評価として開眼閉脚立位保持・閉眼閉脚立位保持テスト1分間、開眼片脚立位保持テスト30秒間を用い、動的姿勢制御評価としてクロステスト(5秒間静止立位後、踵が浮かない範囲で5秒間にて前方に重心移動し、5秒間で元に戻る。足趾が浮かない範囲で5秒間にて後方に重心移動し、5秒間で元に戻る。その後、5秒間で右へ重心移動し、5秒間で元に戻り、5秒間で左へ重心移動し、5秒間で元に戻り、最後に5秒間静止立位を行う。)50秒間を用いた。各検査はランダムにて測定を行った。比較項目は、1)%MVと下肢筋力評価、2)開眼・閉眼閉脚立位保持テストと下肢筋力評価、3)開眼片脚立位保持テストと下肢筋力評価、4)クロステストと下肢筋力評価の関係であり、重心動揺のパラメータは全て単位面積軌跡長、実効値面積、外周面積、単位軌跡長とした。
統計学的分析はPearsonの相関係数を用い、有意水準は1%未満とした。
【説明と同意】
全ての被験者には動作を口頭で説明するとともに実演し、同意を得たのちに実験を行った。
【結果】
%MV(平均76.98±4.72)と下肢筋力評価(平均4.09±0.85)において相関が認められた(r=0.554)。開眼・閉眼閉脚立位保持テストにおける各パラメータと下肢筋力評価、開眼片脚立位保持テストにおける各パラメータと下肢筋力評価においては相関を認めなかった。下肢筋力評価と単位面積軌跡長(平均:3.992±0.657、r=0.410)、実効値面積(平均:41.978±10.889、r=0.352)、外周面積(平均:37.60±11.124、r=0.391)、単位軌跡長(平均:2.843±0.438、r=0.394)の中等度の相関を認めた。
【考察】
静的立位姿勢制御において下肢筋力評価と相関は認められず、クロステストによる動的立位姿勢制御と下肢筋力評価と相関が認められたことにより、健常人においては動的立位姿勢制御の単位面積軌跡長、実効値面積、外周面積、単位軌跡長の項目が下肢筋力評価と成りうることが示唆された。実効値面積、外周面積、単位軌跡長からは下肢筋力評価が高いほど重心移動の幅が広く、単位面積軌跡長からは下肢筋力評価が高いほど効率の良い重心移動が行えていることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
立ち上がり動作を用いた下肢筋力評価では、身長(特に下腿長)の違いによる影響、関節角度条件により左右されること、筋力予測に時間を要することなどの課題がある。今回の研究による立ち上がり動作を用いた下肢筋力評価と動的姿勢制御との関係より、動作時における高齢者の転倒予防評価指標の一つとして活用できる可能性があると考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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