理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-003
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一般演題(ポスター)
ステロイド筋症ラットに対する温熱負荷の影響
森本 陽介吉田 奈央近藤 康隆片岡 英樹坂本 淳哉神津 玲中野 治郎沖田 実
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抄録

【目的】関節リウマチや気管支喘息などに対して,抗炎症・抗免疫効果を狙ってステロイド剤がしばしば投与されるが,多岐にわたる副作用が問題となるのも事実である.中でも運動器の副作用として知られているステロイド筋症の発症は,速筋線維優位の筋萎縮が顕著に認められる.つまり,疾患特有の病態のみならず,ステロイド筋症に伴う筋萎縮の進行を予防することは理学療法における重要な課題といえる.そして,その予防法としては運動負荷が有効といわれているが,疾患自体が重症化してしまい積極的な運動負荷が実施できない症例も存在する.一方,近年の先行研究によれば,温熱刺激によってHeat shock protein(Hsp)72を誘導することで廃用性筋萎縮の予防が可能であり,Hsp72の誘導は速筋に顕著であるといわれている.つまり,速筋線維優位の筋萎縮を呈するステロイド筋症は温熱刺激の好適例であり,筋萎縮の予防効果が得られる可能性がある.そこで,本研究ではステロイド筋症ラットに対する温熱刺激の影響を検討した.

【方法】8週齢のWistar系雄性ラット15匹を,生理食塩水を投与する群(C群),ステロイド剤を投与する群(S群),ステロイド剤を投与し温熱刺激を負荷する群(SH群)の3群に振り分けた.S群とSH群に対してはステロイド剤としてリン酸デキサメタゾンナトリウム(2mg/kg)を傍脊柱に皮下注射し(6回/週),C群には同様に生理食塩水を投与した.SH群に対する温熱刺激は,42度に設定した温水浴内に60分間(3回/週),麻酔下でラットの後肢を浸漬する方法で行った.実験期間は2週間とし,すべてのラットの体重を毎日測定した.実験終了後は麻酔下にて速筋線維で主に構成される長指伸筋を両側から摘出し,右側の筋試料は凍結横断切片とした後,その一部はH&E染色を施し筋病理学的所見の検索を行い,一部はミオシンATPase染色を施し各筋線維タイプの筋線維直径を計測した.一方,左側の筋試料はホモジェネート,遠心分離後に上清を回収し,抗Hsp72抗体を用いたWestern blot法を行い,Hsp72発現量を測定した.

【説明と同意】本実験は長崎大学動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した.

【結果】実験中のラットの体重の推移を見ると,ステロイド剤投与の翌日からS群,SH群とも減少したが,実験終了時の体重はこの2群間に有意差を認めなかった.筋病理学的所見としては,S群,SH群いずれにも筋線維の縮小,少数の小径線維や鋭角線維の出現が認められたが,壊死線維は認められなかった.平均筋線維直径を比較すると,C群,S群,SH群のタイプI線維はそれぞれ23.2±4.3,21.5±4.0,23.4±4.1μmであり,タイプIIa線維はそれぞれ25.0±4.7,22.4±3.8,24.8±3.7μmであった.両筋線維タイプともS群はC群よりも有意に低値を示したが,SH群はS群よりも有意に高値を示し,C群との有意差は認められなかった.また,タイプIIb線維の平均筋線維直径はC群,S群,SH群それぞれ38.8±9.2,28.5±6.5,33.2±6.8μmであり,各群間に有意差が認められた.次に,C群のHsp72発現量の平均値を100%とし,それに対するS群,SH群の割合を算出した結果,S群は91.7%,SH群は673.9%で,SH群は他の2群より有意に高値を示した.

【考察】S群,SH群はステロイド剤投与による体重の減少に加え,筋原性萎縮に特徴的な筋病理学的所見を認め,筋線維萎縮もタイプIIb線維に顕著であることからステロイド筋症の発症が確認された.そして,S群とSH群の平均筋線維直径に比較すると,全筋線維タイプともSH群が有意に高値であり,このことから,温熱刺激はステロイド筋症に伴う筋萎縮の進行を抑制する効果があるといえる.また,この効果を筋線維タイプ別に比較するとタイプI・IIa線維に比べタイプIIb線維に顕著であり,温熱刺激はステロイド筋症に特徴的な速筋線維優位の筋萎縮に対して効果が高いことが示唆された.そして, SH群のHsp72発現量が他の2群より有意に高値を示した結果から考えると,温熱刺激による筋萎縮の進行抑制効果にはHsp72の分子シャペロン機能や損傷タンパク質の修復機能が関わっていると推測される.

【理学療法学研究としての意義】本研究は,ステロイド筋症に対する理学療法の介入手段として,運動負荷が実施できない重症例に対しても適用できる温熱刺激の有用性を示したものであり,臨床におけるステロイド筋症の予防法の足掛かりとなる成果と思われる.

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© 2010 日本理学療法士協会
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