理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-059
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一般演題(ポスター)
高齢者における下肢荷重力と身体活動に関する検討
川村 龍子中江 秀幸相馬 正之
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抄録

【目的】
近年、村田らによって報告された下肢荷重力測定は、簡便性に優れ、歩行能力やADL能力との関連など、その有用性や併存的妥当性が示されている。通所介護サービス利用者は、加齢的変化や環境要因などの問題から身体活動能力が低下する傾向にあると推測する。このような対象者に対し、通所介護サービス提供のみならず、身体活動面に着目した活動量の促進や経時的評価が重要と考える。活動量の評価には複数の質問法や機器による24時間測定があるが、繁雑であり対象者の協力が必要である。そのため、身体機能と身体活動面を反映するような簡易かつ信頼性のある指標の必要性が高いと考える。そこで今回、通所介護サービス利用者を対象とし、市販の体重計を利用した下肢荷重力が身体機能や身体活動面をどの程度反映するのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象者は通所介護サービスを利用している23名、平均年齢84.3±6.5歳、平均体重49.4±11.4kgであった。測定項目は、下肢荷重力、10m最大歩行速度、Timed Up and Go Test、機能的自立度評価(Functional Independence Measure;以下、FIM)の運動項目、身体活動量の指標として国際標準化身体活動質問表ならびに老研式活動能力指標を用いた。
下肢荷重力の測定は、治療台に両腕を組んだ端座位とし、裸足にて両足を体重計(タニタ社製HA-851)に載せさせた。体幹前屈を許可し、両下肢同時に最大努力下で体重計を垂直方向に3秒間荷重・保持させた。測定値を体重で除した下肢荷重比(%)を算出した。10m最大歩行速度は、16mの歩行路に設けた10mの歩行区間の所要時間から10m最大(m/min)を算出した。TUGは、椅座位から立ち上り、3m先を廻って元の椅子に腰掛ける所用時間をTUG(秒)とした。ADL能力としてFIMの運動項目(13項目91点満点)の総点をFIM(点)とした。身体活動量として、運動強度別にその遂行時間を問う9項目からなる国際標準化身体活動質問表short versionを用いて平均的な一日の消費カロリー量を推定した。なお、1Lあたりの酸素消費量を0.005kcal、高強度活動8METs、中等度4METs、歩行速度により2.5METsから5METs、座位や臥位を1METsとの基準を用い、基礎代謝を除いた身体活動量をカロリー化したIPAQ(kcal)を求めた。また、老研式活動能力指標の15項目に対し「はい」「いいえ」それぞれ1点、0点を与えた合計13満点の老研式(点)を用いた。統計処理は、下肢荷重比と各変数との関係をpearsonの相関係数を求めて検討し、統計学的有意水準を5%とした。
【説明と同意】
研究の趣旨と内容について十分説明し、自由意思にて研究参加の同意を得た上で研究を開始した。
【結果】
全対象者平均は10m最大101.1±30.9 m/min、TUG 20.0±7.4秒、FIM 84.09±7.6点、IPAQ15.0±2.0 kcal、老研式5.4±2.6点であった。下肢荷重比との関係は、10m最大(r=0.51、p<0.05)とTUG(r=-0.52、p<0.05)および老研式(r=0.54、p<0.01)との間に統計学上の有意な相関が認められた。しかし、下肢荷重比とFIMならびにIPAQとは有意な相関は認めなかった。
【考察】
下肢荷重比と各変数との関連性では、10m最大とTUGにおいて有意な相関が得られ、先行研究と類似する結果であり、下肢荷重比が虚弱高齢者の移動能力と密接な関連を持つことを支持した。一方、下肢荷重比とFIMやIPAQとは有意な相関は認められなかった。脳卒中患者を対象とした先行研究では、下肢荷重比がFIMと正相関関係を示すと報告しており、本研究結果と異なる。本研究の対象者のFIM平均が84.09±7.6点であり、80点以下の症例が3名のみと身辺動作能力が高いことが影響したと考える。また、IPAQの評価法では活動強度と頻度が高いと消費カロリー量も多くなるが、本研究では中等度以上の活動がみられず、ほとんどが身体活動の低い座業であったという身体活動の低い集団特性が影響したと考える。下肢荷重比率とIPAQとは相関を認めなかったが、老研式とは相関関係を認めたことから、下肢荷重比率は運動強度による身体活動量よりも拡大ADLのような質的な活動状況を反映する可能性があると考える。
【理学療法学研究の意義】
本研究結果は、簡易に測定できる下肢荷重比が虚弱高齢者において移動能力を反映するというこれまでの報告を支持し、下肢荷重比が老研式にて推定する活動能力を反映する経時的評価の指標となり得ることを示唆した点で有意義と考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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