理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 134
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神経系理学療法
在宅脳血管障害患者の活動制限に関わる転倒自己効力感の関与
*井上 優津田 陽一郎山下 昌彦荻野 誉子加藤 剛原田 和宏齋藤 圭介香川 幸次郎
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抄録

【はじめに】
 介護予防の観点から,機能低下のリスクを有する脳血管障害(脳卒中)患者の活動制限が改めて注目されている。
 一般高齢者の活動制限に関する検討では転倒現象に関心が注がれ、転倒への恐怖心や自信低下が活動を制限し、活動能力の低下を招き転倒の再発を生じさせるなど、心理的要因は看過し得ないものと指摘されている。心理的要因と活動制限の関連を検討した研究では、転倒せず活動を行う自信を表す「転倒自己効力感 Fall efficacy scale(FES)・Modified fall efficacy scale(MFES)」が用いられ、転倒自己効力感が低い者ほど活動が制限されることを報告している。
 脳卒中患者は一般高齢者に比して転倒に対する恐怖心が強く、活動への自信低下を生じやすいことが推察される。しかし先行研究では、脳卒中患者を対象に検討したものは少なく、活動制限と心理的要因との関連は明らかではない。本研究は、脳卒中患者の活動制限と転倒自己効力感との関連を明らかにすることを目的とした。

【対象と方法】
 調査対象は在宅脳卒中患者で、2004年8月∼12月に県内のA病院外来もしくは通所施設サービスを利用し,調査の目的と内容に同意が得られた103名とした。その内,発症後1年以上経過し,屋内歩行が自立,コミュニケーションが可能で,柄澤式老人知能の臨床判定基準が正常と判定された64名(男性42名・女性22名,平均年齢72.4±10.7歳)を解析対象とした。調査方法は理学療法士による面接法とした。

【調査内容と分析方法】
 調査内容は、年齢,性別,転倒経験の有無,FES(10項目),MFES(4項目)を設定した。活動制限は、「一日中家の外には出ず,家の中で過ごすことが多いですか」という質問を用いて評価し、外出群と非外出群にわけた。活動制限と各要因の関連はχ2検定とMann-Whitney検定を用いた。

【結果】
 2群間比較の結果、性別・年齢・転倒経験は活動制限に関連性を認めなかった。FES10項目合計点・MFES4項目合計点は有意な差を認め,外出群は非外出群に比して転倒せず活動を行う自信がより強いことが示された。次に,FES・MFESの下位項目に着目し比較を行った結果,屋内でバランス能力や移動能力を必要とする項目は両者に有意な差を認めなかったが,手段的ADLや屋外活動に関する項目など,より上位の能力を必要とする活動において,外出群が統計的に有意に自信を強く持っていることが示された。

【考察】
 転倒自己効力感は脳卒中患者の活動を制限する可能性が考えられるが,基本動作に関するものよりも、より上位の手段的ADL・屋外活動における自信の程度が,活動制限に関連することが示唆された。

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© 2006 日本理学療法士協会
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