理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 690
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内部障害系理学療法
運動習慣が動脈血圧反射感受性に与える影響
*小峰 秀彦菅原 順林 貢一郎横井 孝志
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抄録

動脈血圧反射は動脈血圧を正常値に保つための反射で,この反射の感受性低下は高血圧や心筋虚血につながると指摘されており,臨床的に重要な役割を持つ.動脈血圧反射の感受性は老化などに伴って低下するが,運動することによって増加することが報告されている. 動脈血圧反射の受容器は頸動脈壁に存在し,動脈血圧の大きさに応じた頸動脈壁の伸展を感知するので,老化や運動習慣に伴う動脈血圧反射感受性の変化は頸動脈の伸展性の変化が原因であると考えられている.一方,動脈の伸展性に影響を与える頸動脈血管壁の肥厚度は,年齢には依存するが運動習慣には依存しないと報告されている.これらの結果は,運動習慣による動脈血圧反射感受性の増加には,頸動脈壁の伸展性以外の要因が関与している可能性を示唆する.運動時の動脈血圧反射は運動に関連した脳中枢や骨格筋からの神経性入力によって修飾され,その反射特性を変化させることが近年明らかにされてきた.したがって,運動によって動脈血圧反射感受性が増加する原因は,動脈壁の伸展性など「機械的因子」だけでなく,反射中枢での神経性調節など「神経的因子」も関与する可能性が考えられる.本研究では,上記可能性を明らかにするために,若年者を対象に運動習慣のある者とない者に分け,「動脈血圧反射全体の感受性」を「機械的因子」と「神経的因子」に分けて分析した.動脈血圧反射の経路の中で,頸動脈血圧の変化から頸動脈血管径までの変化を「機械的因子」,頸動脈血管径の変化から心拍数の変化までを「神経的因子」として評価した.頸動脈血管径の変化は超音波装置を用いて測定した.頸動脈血圧,心電図,頸動脈血管画像には同期信号を取り込み,同じ心拍毎に解析した.また,動脈血圧反射の「機械性因子」に影響を与えると考えられる頸動脈壁の肥厚度についても超音波装置を用いて評価した.本研究によって運動習慣による動脈血圧反射の感受性増加が,頸動脈血管壁の厚さ,伸展性などの「機械性因子」だけでなく,中枢内変化などの「神経性因子」にも影響されることが明らかになった場合,動脈血圧反射の感受性を高めるための運動処方が変わる可能性がある.「神経性因子」が運動による動脈血圧反射の感受性を増加させる原因の一つであるとすれば,より短期間,より低負荷で効果を出せる運動処方へと結びつく可能性がある.このような短期間,低負荷の運動処方の確立は,すでに心疾患や筋力低下を持ち合わせていることの多い高齢者にとって非常に有益である.

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© 2005 日本理学療法士協会
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