理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 512
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理学療法基礎系
ショベル柄の形状と雪重量の違いが除雪動作時の筋活動に及ぼす影響
*大山 陽平田中 敏明吉成 哲中島 康博桑野 晃希藤原 健一林 昌宏白銀 暁前田 佑輔須田 力
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キーワード: 除雪, 筋活動, ショベル柄
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抄録

【目的】積雪寒冷地の人々にとって冬期は,除雪,積雪歩行,寒冷に対する適応能力の発揮など,身体への負担を余儀なく受ける時期である.除雪作業後の疲労部位に関する調査では,90%以上の対象が腰背部に疲労を訴えることが報告されている.腰痛予防という観点から,今回我々は適切なショベルの形状を模索するために3種類のショベルを試作した.そこで,各ショベルの特性が人の除雪動作に及ぼす影響を明らかにするため,異なる雪重量における模擬除雪動作の筋活動分析とビデオによる定性的分析を試みた.
【方法】健常男性4名を対象とし,全員右利きであった.ショベルは柄の形状が直線型,外周に長手方向の溝を入れた星型,中間を湾曲させた丸取手型の3種類とし,投擲物には2kg,5kg,10kgの3種類の砂袋を用いた.実験は,正面に向かって左手方向約1.5m先に設置した傾斜台に向かい砂袋を投げる模擬除雪動作を各5分間行った.単位時間あたりの投擲回数は対象の任意とし,できるだけ一定となるように指示した.動作時の上下肢,体幹部の主要筋群の筋活動を,表面筋電計を用いて計測した.解析は,砂袋をすくって腰の高さまで持ち上げる持ち上げ相と,それを投擲する投げ出し相の2相について行い,事前に計測した最大随意収縮電位(MVC)により正規化した(%MVC).また,筋疲労度の一指標として平均パワー周波数(MPF)を求めた.
【結果】2相に共通する傾向として,左僧帽筋群,左前腕屈筋群が常に活動しており,右僧帽筋群の活動は小さく,右前腕伸筋群の活動が大きかった.また,脊柱起立筋群の活動は左側が小さく右側が大きくなっていた.投げ出し相では持ち上げ相の傾向に加えて,右三角筋群,右上腕三頭筋,両腹斜筋の活動が大きかったが,ショベル柄の形状による明確な差異は認められなかった.砂袋の重量と各筋電位の関係は概ね比例関係となり,特に重量が大きくなるに従い脊柱起立筋群の活動の左右差が大きくなる傾向にあった.5分間作業後のMPF低下率は,左脊柱起立筋群が約18%,左前腕屈筋群が約8%であり,最も顕著な低下率を示したのは右脊柱起立筋群の約30%であった.ショベル柄の形状による違いでは,直線型では右脊柱筋群の低下率が大きく,丸取手型でも同様な低下傾向であったが,直線型ほど顕著な左右差は無かった.
【考察】除雪作業においては左右脊柱起立筋群や投擲側の前腕屈筋群,非投擲側の前腕伸筋群への負担が大きく現れていると考える.時折持ち手を交代し投擲方向を変え,適度に休憩を取るなどの対策が必要と考え,また,ショベルの柄を丸取手型とすることにより左右バランスが良くなる等,用具側の改善可能性も示唆された.今後,作業条件ごとにデータを蓄積し,代謝や動作解析等の基準と合わせて,作業と用具改善の両面から検討していく予定である.

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© 2005 日本理学療法士協会
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