理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 495
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理学療法基礎系
肩関節の機能的回旋軸について
*高濱 照壇 順司
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抄録

【目的】肩関節の内外旋は,通常上腕骨長軸を中心軸とした回旋を指すが,上腕骨を固定せずに速い内外旋運動を行わせれば,上腕骨軸が揺れる現象がみられる.このことから速い回旋運動には上腕骨軸ではなく,機能的回旋軸(以下,機能軸)で回旋が行われると考えられる.肘を屈曲した場合,上肢は「く」の字をした剛体とみなされ,機能軸は上肢の重心点を通ると推測される.そこで今回,機能軸を体幹と90°の位置に決めて肩関節の回旋をさせ,手部の重さを変えることによる機能軸の変化を調べたので報告する.
【方法】対象は健常男性右肩7関節で年齢は21.4±0.8歳であった.1)対象者を右上の30°半側臥位とするために,ベッドに30°の三角枕を敷いて斜面を作り,その上に仰臥させた.上肢をベッド短軸に対して垂直な面で挙上すれば,水平内転60°での挙上(肩甲骨面挙上)となるようにした.対象者の前腕部が水平になるように肘を屈曲させ,前腕部に天井より1本のロープで吊られたカフを装着した.ロープは鉛直とし,ロープの延長線が骨頭中心を通るようにした.対象者に内外旋運動をある程度速く行わせ,ロープが揺れなくなるまで前腕部のカフの位置を調整した.ロープの揺れがなくなったときロープが機能軸を示すことになり,そのとき,カフの中心と肘頭からの距離を測定し,尺骨の長さで除して肘頭からの割合を算出した.2)椅子座位において水平内転60°の位置で70°肩を挙上させ,肘を80°ほど屈曲させた.前腕部に細い紐で作った輪を通し鉛直に吊り下げ,尺骨が水平に釣り合う位置を探した.釣り合ったときの輪の位置を骨頭中心と上肢重心を結んだ線(以下,骨頭重心線)が前腕部を通る位置とした.その位置を肘頭から測定し,前述のように尺骨に対する割合を求めた.3)次に硬式野球ボール(140g)を握らせて同様な計測を行った.統計は対応のあるt検定を用いた.
【結果】機能軸の肘頭からの割合は,素手での回旋では0.40±0.02,ボールを持った回旋では0.51±0.04であり,有意差があった(p=0.00017).尺骨が釣り合った位置の肘頭からの割合は,素手の場合が0.38±0.03で,ボールを持った場合が0.47±0.04であり,有意差があった(p=0.00058).
【考察】機能軸は肘頭からみて尺骨長の4割の位置であり,骨頭重心線の位置と近かった.また硬式ボールを持つと回旋軸の肘頭からの割合が約5割になり,骨頭重心線位置も5割近くまで増加した.手部の重さが変化すれば機能軸も移動し,骨頭重心線とほぼ一致することから,機能軸は肩甲上腕関節の構造には依存せず,上肢の重心に依存すると考えられる.投球動作のような速い回旋運動では機能軸での回旋をしていると推測され,カフエクササイズ等においても上腕骨軸回旋ではなく機能軸回旋を用いる方が実用的であろう.

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© 2005 日本理学療法士協会
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