理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 436
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理学療法基礎系
視覚情報処理機構における背側経路は筋収縮の調節に関与する
*森岡 周太場岡 英利片岡 保憲橋本 良平八木 文雄
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キーワード: 視覚, 筋収縮, 運動制御
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抄録

【目的】網膜から入った視覚情報は外側膝状体を経由した後、後頭葉から二つの経路を介して処理される。一つは一次視覚野から側頭葉への腹側経路であり、ここでは物体が「何であるか(what)」の形態認知処理が行われる。もう一つは頭頂葉への背側経路であり、ここでは物体が「どこにあるか(where)」の空間認知処理が行われる。Goodaleらは、後頭葉・頭頂葉損傷患者は指標の傾きに合わせて手の傾きを調節できないことを発見し、背側経路が運動制御に関与していると仮説を提唱した。この仮説について現在疑う余地はないが、ここで取り上げられた運動制御は、空間に対する手の操作運動であって、筋収縮の調節を調べたものではない。そこで本研究では、size-weight illusionとcolor-weight illusionの二つの心理現象を用いて、背側経路が運動制御における筋収縮の調節に対しても関与するかどうかを明らかにする。
【方法】実験1:大きさは異なるが同じ重さの二つの容器を用意した。被験者は健常者14名とし、大容器の持ち上げ後、小容器の持ち上げをA群、小→大をB群に7名ずつに振り分けた。実験2:同じ大きさ・重さの白と黒の容器を用意した。被験者は健常者14名とし、黒容器の持ち上げ後、白容器の持ち上げをC群、白→黒をD群に7名ずつ振り分けた。容器の総重量は被験者の体重の約10%とした。手順は昨年度本学会と同様に、容器の交互持ち上げを1試行とし5試行で構成した。被験者は立位で取手を前腕回外位で握り、肘関節屈曲90度位まで容器を持ち上げた。なお、取手は体幹の前屈が入らない高さに取り付けた。1試行後、持ち上げ前の重さの予想、後の重さの違いについて内省を記録した。筋放電の導出にはNORAXON社Myosystem1200を用い、僧帽筋上部線維、三角筋中部線維、上腕二頭筋、腕橈骨筋の筋腹に表面電極を貼付した。持ち上げ時の最初1秒間の積分値を求め、最大等尺性収縮時を100%とし正規化した(%IEMG)。統計処理には対応のあるt-検定を用い、二つの容器の持ち上げ時の%EMGを比較した。なお、有意水準は5%未満とした。
【結果】実験1:1試行の小容器持ち上げの際、A群、B群共に上腕二頭筋と腕橈骨筋に有意な増加が認められた(p<0.05)。一方、2から5試行では両群において全ての筋で有意差を認めなかった。持ち上げ前は大容器が重いと予測したが、後は小容器が重いと判断した者が殆どであった。実験2:1から5試行において、C群、D群共に全ての筋に有意差を認めなかった。持ち上げ前は黒容器が重いと予測した者が殆どであったが、後は黒が重い3名、白7名、同じ4名であった。
【考察】物体の色はV4野を中心に側頭葉に至る腹側経路で処理されるのに対して、大きさは頭頂連合野に至る背側経路で処理される。この背側経路は運動のため(how)の視覚経路である。実験1において二つの容器持ち上げ時の%IEMGの間に有意差を認めたことは、背側経路が筋収縮の調節に対して関与することを示唆している。

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© 2005 日本理学療法士協会
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