理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 435
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理学療法基礎系
座位における体幹前傾による前方移動距離が腹斜筋群と腰背筋群の筋積分値に及ぼす影響
*渡邊 裕文蔦谷 星子大沼 俊博三好 裕子赤松 圭介藤本 将志中道 哲朗鈴木 俊明
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抄録

【はじめに】座位での活動性の向上は、立位や歩行などの日常生活活動に影響を与える。そのため座位での治療場面は、様々な疾患の理学療法で用いられる。特に脳血管障害患者では、立ち上がり動作の準備として前方への体重移動を実施していく必要がある。我々はこれまでに座位での側方移動距離が骨盤側方傾斜角度と腹斜筋群(外腹斜筋、内腹斜筋重層部位)の筋積分値に及ぼす影響について報告してきたが、今回は体幹前傾による前方移動距離が体幹筋(腹斜筋群および腰背筋群)に及ぼす影響について検討した。
【対象と方法】対象は健常男性7名、平均年齢27.5歳であった。被験者に足底を床に接地した座位にて両肩関節90度屈曲位を保持させ、筋電計ニューロパック(日本光電社)を用いて、腹斜筋群(外腹斜筋、内腹斜筋重層部位)と腰背筋群の筋積分値を測定した。電極位置として腹斜筋群はNgらの報告にもとづき肋骨下縁より恥骨に向かう線上の近位部とし、腰背筋群はVinkらの方法に準じて第4腰椎棘突起側方3cmに置いた。電極間距離はそれぞれ2cmとし、皮膚インピーダンスを5kΩ以下に前処置し、10秒間、3回測定した。次に自作の移動距離測定器を肩関節90度屈曲保持させた指尖に配置し、5、10、15、20、25、30cmと体幹前傾による前方移動距離を増加させ、筋積分値を測定した。測定中、視線は前方の一点を注視させ、両側上肢は肩関節屈曲90度位から床面と水平位のまま前方移動させた。座位における両肩関節90度屈曲位での各筋の筋積分値を1として、それぞれの筋積分値相対値を求めた。分析は分散分析とTurkyの多重比較を用いた。なお、対象者には本研究の目的、方法を説明し、同意を得た。
【結果と考察】腹斜筋群の筋積分値相対値は、体幹前傾による前方移動距離の増加に対し、座位における両肩関節90度屈曲位での筋積分値と比較してそれ程変化を認めなかった。腰背筋群の筋積分値相対値に関しては、体幹前傾による前方移動距離の増加に対し増大した。座位からの立ち上がり動作において、体幹の前傾は必ず必要な要素である。本研究における体幹前傾位の保持には、腰背筋群の関与が大きく、腹斜筋群の筋活動の増大は必要でないことが示唆された。星らは立ち上がりにおける体幹前傾時には縫工筋、大腿直筋、前脛骨筋が先行して活動し、続いて内側・外側広筋、ハムストリングス、大殿筋、脊柱起立筋が活動するとしている。これらより体幹前傾時の体幹の制動には主に腰背筋群と下肢筋群の作用が重要であり、腹斜筋群はそれ程関与しないと考えられる。近年、腹斜筋群の働きは、内腹斜筋および外腹斜筋の単独部位と重層部位での相違について報告されている。本研究課題においても上肢挙上位や骨盤の動きを考えると、内腹斜筋および外腹斜筋の単独部位の働きは、腹斜筋群重層部位と違うことが予測され、今後の検討課題としたい。

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© 2005 日本理学療法士協会
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