理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: NO548
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測定・評価
顔面神経麻痺における表情運動の定量化と回復過程
*水上 信智水上 信明濱田 育子小原 昌幸畑 美幸平尾 春子伊藤 剛洋松本 仁葛西 美香子中田 英雄田口 孝行
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抄録

【はじめに】顔面神経麻痺の臨床的評価法として、肉眼的観察に基づくスコア法(表情運動の点数化)が広く用いられている。代表的なものに、House-Brackmann法や40点法(柳原法)がある。しかし、麻痺程度の微細な変化の評価や客観性・信頼性については評価者の主観が入るなどの問題点が指摘されている。近年、顔面神経麻痺に関してモアレ像やビデオ画像による解析が行われているが、特殊な装置・機器を使用するため臨床的に応用されるまでには至っていない。そこで、デジタルカメラを用いた顔面神経麻痺の定量的解析を試みた。【対象と方法】対象は特発性顔面神経麻痺患者6名(男性3名、女性3名、初診時平均年齢39.5±11.4歳)である。いずれも随時デジタルカメラで撮影されたご自身の写真を確認して頂き、治療経過について説明を行ったインフォームドコンセントの得られた患者である。麻痺側別では、右顔面神経麻痺3名(男性2名、女性1名、初診時平均年齢29.7±3.0歳)、左顔面神経麻痺3名(男性1名、女性2名、初診時平均年齢49.2±5.2歳)であった。対照群として健常者10名(男性8名、女性2名、平均年齢39.5±12.9歳)を設定し、正常範囲のデータとした。撮影するにあたり、患者の後頭部及び背部を壁に密着させ、リラックスした座位をとらせた。デジタルカメラと患者の距離は60cm、デジタルカメラの高さを110cmとし、「天井を見つめる(前頭筋)」、「ギュッと目をつぶる(眼輪筋)」、「イーと歯をみせる(口角挙筋)」の3表情を撮影した。【解析の手順】撮影された画像をパーソナルコンピュータに取り込み、PageMaker 7.0(Adobe社製)を用いて解析した。撮影された表情の左右に指標点を設定し、その両点を結ぶ直線を引いた。このとき両眼球または両耳垂を結ぶ直線を基線とし、その直線とのなす角度を計測した。これを麻痺角度と定義した。指標点は眉毛の最内側(前頭筋)、外眼裂(眼輪筋)、口角(口角挙筋)の3部位である。【結果と考察】横軸を発症後病日、縦軸を麻痺角度とし回復曲線を描いた。この曲線の変化から3部位の麻痺角度は顔面神経麻痺の回復にともなって減少し、部位による回復過程の差異が明らかになった。どの部位が早く回復するかは特定できないが、麻痺角度の変化から回復の度合いやスピードに違いがあることが示された。また回復曲線と正常範囲から、おおよその治癒の時点を推定することができた。患者に対して回復過程の定量的な情報を提供することで、予後予測やモチベーションの向上に役立ち、患者も回復の様子を実感し治療に対して積極的になってきた。一方顔面神経麻痺の後遺症として、過度な刺激を不適切な時期に加えた結果生じる病的共同運動や拘縮が問題となっている。本法による回復過程の定量化は、理学療法を提供する時期を適切に判断できるので、後遺症の予防という観点からも有効と思われる。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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