理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: LO429
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スポーツ
自家屈筋腱を用いた解剖学的前十字靱帯再建術の臨床成績
従来の1および2ルート再建法との比較
*田邉 芳恵信太 雅洋伊藤 俊一福田 修近藤 英司安田 和則
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抄録

【目的】膝前十字靱帯(以下、ACL)損傷に対する術後療法は、今日まで改良を重ね安定した術後成績が得られるようになった。しかしACL損傷に対しては手術的治療が最も重要であり、再建方法にも改良が重ねられてきた。近年ではより正確な解剖学的位置に再建するための基礎研究が行なわれている。しかし未だACLの前内側(以下AMB)および後外側(以下、PLB)線維束を正確に再建する2ルートACL再建術の臨床成績は報告されていない。共同演者らはPLBに関する関節鏡解剖学的基礎研究に基づいて解剖学的AMB、PLB再建術を開発し、その評価のための前向き比較臨床研究を1999年より行っている。その一連の研究の中で、今回は自家膝屈筋腱を用いた解剖学的ACL再建術の臨床成績をまとめる機会を得た。本発表の目的は本術式の臨床成績と、同じ移植腱を用いた従来の2つの術式のそれを比較することである。【方法】症例は鏡視下1皮切ACL単独再建術を行った連続する72症例で、24例ずつ3群に分けた。I群は大腿骨骨孔を従来の1時(11時)の方向に作成し、移植腱は6本の屈筋腱を組み込んだhybrid(SGH)材料を1本移植した最初の24例である。II群はI群と同様の脛骨孔から第1のソケットを上記の位置に、第2のソケットを2時半(9時半)の位置に作成し、前者には4本、後者には2本の屈筋腱を組み込んだSGH材料を移植した次の24例である。III群は脛骨および大腿骨上のAMBおよびPLBのFootprint の中心を、各々直線的に貫通する骨孔を作成し、AMBには4本、PLBには2本の屈筋腱を組み込んだSGH材料を移植した最後の24例である。手術は全例を1人の術者が行い、同一方法(Endobutton+Staple、初期張力80N)で固定した。術後は全例に同一の後療法を行なった。手術翌日より屈曲30度で固定する膝装具を装着し、1/2荷重を許可した。手術後2週間で全荷重歩行を許可し、4週で装具の角度制限を除去した。装具は術後3ヶ月間装着した。術後1年時に定量的臨床評価を行い、分散分析とSpearman順位相関分析を用いて3群間を比較した。【結果】3群の背景因子に有意差は認められなかった。膝屈曲が30度における前方不安定性の対健側差の平均はI群2.8mm、II群2.2mm、III群1.0mmであり、分散分析で群間に有意差を認め(p=.006)、post-hoc testではI群とIII群の差が有意であった(p=.002)。相関分析では手術内容の進歩と術後不安定性との間に有意の関連がみられた(p=.003)。ROM、大腿四頭筋および膝屈筋力、Lysholm評価、IKDC評価に関しては群間に有意差を認めなかった。【考察】本術式においては特にPLBの再建に関する基本方針、手技の理論、および骨孔の位置は、Mott(1983),Munetaら(1999)の4骨孔2ルート法のそれと大きく異なっており、有用な術式であると考えられた。理学療法士はACLに関する解剖学的な知識を正確に持つことやACL再建術における手術内容の進歩に目を向け、正しい術後療法を行なうことが重要であると考える。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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