理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: LO081
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投球障害肩におけるquadrilateral space症候群の肩甲骨動作解析
*瀬下 寛之宇賀神 直赤岩 龍士田村 貴行森田 光生辻野 昭人大高 洋平伊藤 恵康
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抄録

【はじめに】繰り返しの投球動作により肩痛を来たす投球障害肩のうち、肩後面の疼痛はquadrilateral space(以下QLS)に一致していることが多い。QLSとは上腕骨外科頚、上腕三頭筋長頭、大円筋、小円筋との間で囲まれた間隙で、腋窩神経と後上腕回旋動静脈がここを通過する。これらの神経血管が絞扼されることにより三角筋筋力障害がみられ、症状として主に疼痛や知覚障害が出現し、QLS症候群としている。 今回、肩関節水平面上での肩甲骨の変位を観察することで、肩関節後方構成体とQLS症候群について検討したので報告する。【対象及び方法】対象は肩・肘痛を主訴として来院した野球選手のうち、QLS症候群と診断され理学療法の対象となった投手20名(平均年齢18.8±5.0歳)である。 方法は肩甲骨変位を観察するため肩甲棘内縁、肩甲骨下角を体表指標点としてマーカーを貼り、肩甲棘内縁-脊柱間距離、肩甲骨下角-脊柱間距離及び肩甲骨内縁角度(肩甲棘内縁、肩甲骨下角を結ぶ直線と脊柱のなす角度)を計測した。測定肢位は肩関節水平屈曲0度及び90度とし、投球側と非投球側でそれぞれ計測した。各パラメーターにおける肩関節水平屈曲0度での測定値に対する、90度での測定値を変化比率として算出した。【結果】肩関節水平屈曲0度において肩甲棘内縁-脊柱間距離(投球側6.9±1.3cm、非投球側5.9±1.0cm)は、投球側で有意に大きかった(p<0.01)。肩甲骨下角-脊柱間距離(投球側13.3±2.2cm、非投球側11.8±2.8cm)及び肩甲骨内縁角度(投球側18.4±6.0度、非投球側19.9±5.4度)では投球側、非投球側で有意差は認められなかった。肩関節水平屈曲0度から90度に変位した際の各測定値の変化比率について、肩甲棘内縁-脊柱間距離(投球側1.6±0.4、非投球側1.7±0.4)では投球側と非投球側との間に有意差は認められなかったが、肩甲骨下角-脊柱間距離(投球側1.9±0.4、非投球側1.6±0.4)及び肩甲骨内縁角度(投球側1.1±0.4、非投球側0.7±0.4)では、投球側で有意に大きかった(p<0.05、p<0.02)。【考察】QLS症候群は絞扼性神経障害の一つで、投球動作のfollow through期にQLSが狭小化することが要因として考えられる。今回の調査で、投球側と非投球側の肩甲棘内縁-脊柱間距離の変化比率においては有意差が認められなかったのに対し、肩甲骨下角-脊柱間距離の変化比率では投球側で有意に増加した。これは肩甲上腕関節後方の拘縮により肩関節水平屈曲において、肩甲骨を上方回旋方向に変位させたためと考えられる。この変位は肩甲骨内縁角度が増加したことからも裏付けられ、この拘縮がQLSを狭小化させていることを示唆している。 肩甲上腕関節後方の拘縮に対し、肩甲骨を保持することにより限局的なストレッチングを適切に指導することが、QLS症候群の治療の一つと考えられる。

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