理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: KO073
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代謝疾患
前腕から手指の拘縮を呈した好酸球性筋膜炎に対する理学療法の一症例
*薄 志美倉田 典和入江 一憲
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抄録

【はじめに】好酸球性筋膜炎(以下EF:eosinophilic fascitis)は末梢血の好酸球増多,血沈亢進,γ‐グロブリンの増加などを伴う炎症性自己免疫疾患である。診断には皮膚筋生検が用いられ筋膜の肥厚,リンパ球,形質細胞,好酸球の浸潤が認められる。臨床症状は四肢のこわばりと痛み,腫脹などから始まり進行すると四肢に屈曲拘縮を生じる。今回当院において,左前腕から手指の拘縮を主訴としたEF患者に対して理学療法を施行する経験をしたので報告する。【症例】26歳,男性。週3から4回空手道場に通い,毎日1から2時間自主トレーニングをしていた。 2000年6月頃から左上肢痛,筋力低下を自覚し筋力トレーニングをさらに強化する。7月頃より左手関節の硬直,10月頃には右手関節の硬直が出現する。身体所見から強皮症が疑われ,12月8日精査・加療目的のため当院膠原病リウマチ内科に入院した。【入院時所見】EFに特徴的なgroove signが両上肢に,また左手関節硬直,両手指に屈曲拘縮が見られた。血液検査では好酸球数増多,血沈,CRPの亢進が認められた。左上腕二頭筋の皮膚筋生検では筋膜にリンパ球,好酸球の浸潤が認められた。左上腕のMRIで三頭筋筋膜,二頭筋筋膜は最大で5mm肥厚していた。以上から当初強皮症を疑われていたが,EFと診断され2000年12月20日よりプレドニゾロン(以下PSL)40mg/dayが開始される。【経過】PSL投与翌日よりPT開始。この時点でCRPは0.5であった。ADLは自立レベルであったが左手関節硬直,手指の伸展制限,握力低下により左上肢の使用は困難だった。また手指の伸展制限は症例にとってコスメティックな面でも重要な問題であった。これらから,ゴールを左手関節から手指の伸展可動域の拡大と握力増強とした。前腕屈筋群に対して,柔軟性促進目的で超音波または低周波,ストレッチングを行い,併せて等尺性収縮を中心とした筋力増強訓練も行なった。この際,炎症値などのデータを見合わせながら徐々に回数,負荷ともに増大した。血液検査値などは順調に回復,PSLも漸減し2001年1月20日に退院した。この間(実質12日間)PTを施行,手指の可動域が改善した程度であった。そのため2週に1回の頻度で外来へ繋げた。その後徐々に手関節可動域拡大,握力増強しADL上左上肢の使用頻度も増えた。9月から復職,趣味のトレーニング量も発症前に戻り2002年1月18日でPT終了とした。【考察】本来筋膜は筋収縮の調節を統合する役目があるとされているが,EFでは筋膜が肥厚することで筋収縮,弛緩が困難となり関節拘縮に発展すると考えられる。症状から筋肉痛とされ発見が遅れる場合もある。PSLにより炎症や好酸球数は早急に改善するが,拘縮が長期に及ぶと保存的にも観血的にも改善に困難を要し,PTも外来長期フォローの必要性が生じる。EFの予後には,早期発見とPTを含む早期治療が重要と考えられた。

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