理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: JP349
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脊髄疾患
脊髄損傷者の装具歩行練習が免疫機能に及ぼす影響
*濱 祐美岩崎 洋千見寺 芳英関 寛之河島 則天三田 友記矢野 英雄
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抄録

【はじめに】我々は第36回当学会において,脊髄損傷者の歩行練習実施が大腸機能に好影響を及ぼす可能性を示した。今回は免疫機能の客観的指標とされるNK細胞(Natural killer cell)活性について,歩行練習実施前後および練習の経過に伴う変化を検討することを目的とした。NK細胞はvirus感染,腫瘍発現に対する防御機能を担う重要な役割を持つ細胞であり,身体的,精神的ストレスによく反応すること,さらに適度な身体活動によりその活性値が増加することが知られている。【対象】研究目的を理解し,同意が得られた外傷性完全脊髄損傷者を対象とし,その内訳は男性4名(うち第8胸髄損傷1名,第12胸髄損傷3名)であった。平均年齢は24.5歳(21-28歳),受傷後の平均経過年数は15.5ヶ月(8-32ヶ月)であった。【方法】歩行練習開始前2週間から開始後3ヶ月間を実験期間とし,実験期間中は車いすスポーツ,水泳等の積極的な身体活動を制限した。歩行練習には荷重制御式歩行補助装具(Weight Bearing Control orthosis: WBC)を使用し,20分/回、2回/日の計40分を週5回実施した。実験開始後1ヶ月毎に,本人の快適歩行速度(16から20m/分)による20分間の装具歩行を実施,その前後に採取した静脈血を用いてNK細胞活性検査を実施した。NK細胞活性は51Cr遊離法により,エフェクター細胞(E)とターゲット細胞(T)の比(E/T比)によって評価した。E/T比の正常範囲は男性:44.1%-75.4%、女性は36.7%-63.4%である。【結果】練習開始1ヶ月後における歩行前→後のE/T比は25.07±8.67%→29.07±9.03%,2ヶ月後は24.07±14.92%→28.47±13.57%,3ヶ月後は30.1±3.46%→36.5±1.62%であり,いずれの被験者,検査時期においてもNK細胞活性は歩行実施前後で増加傾向を示した。【考察】脊髄損傷者の安静時NK活性値は健常者のそれと比較して顕著に低値を示した。先行研究では,慢性的な運動不足による肥満者や疾患履歴を有するものは正常値と比較して低いNK細胞活性値を示すことが報告されており(Pedersen et al. 1989,Crist et al.1989),本研究の結果についてもこれらの報告と同様の機序が考えられる。本研究では装具歩行の実施によりNK細胞活性が増加する結果を得たが,この結果は適度(中強度)の運動によってNK細胞活性が増加するとの報告(Nieman et al. 1993)に一致するものであり,今回実施した装具歩行が脊髄損傷者の免疫活性を高めるに相応しい強度であることが示された。また,脊髄損傷者においてNK細胞活性の安静値が正常値を大きく下回ったことを勘案すると,継続的な歩行練習実施による免疫機能の改善(NK細胞活性の上昇)が期待されるが,本研究の結果からは明確にされず今後さらに症例数を重ねて検討する必要があるものと考えられた。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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