理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: HP782
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呼吸器疾患
頚髄損傷者における口腔内圧法による呼吸筋力の影響因子の検討
*立石 貴之額谷 一夫河野 弘高橋 秀寿
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抄録

【はじめに】我々は第37回本学会において頚髄損傷者(以下頚損者)と健常者の口腔内圧測定による呼吸筋力を比較検討し、頚損者でも健常者と同程度の口腔内圧を発生させることができる場合があると報告した。つまり、吸気最大口腔内圧(以下PImax)、呼気最大口腔内圧(以下PEmax)は呼吸筋力以外にも肺弾性、胸壁コンプライアンス、胸郭の形状、口腔周囲筋の使い方などが相互に作用し決定されるものであり、個体差が大きい場合があると報告した。そこで今回は頚損者におけるPImax、PEmaxと個体因子である年齢、身長、体重、肺機能、胸囲との関連性を検討した。【対象と方法】対象はFrankel A、Bの外傷性の頚損者男性25名(C5:2名、C6:12名、C7:7名、C8:4名)、平均年齢40.8±12.3歳、平均身長170.9±5.8cm、平均体重55.8±7.7kgであった。また、頚損者は受傷後6ヶ月以上経過した症例とした。呼吸筋力はチェスト社VITALOPOWERKH101を用い、車いす上座位にて残気量位での PImax、全肺気量位でのPEmaxを測定した。また、PEmax測定時に頬部が膨らまないように指示した。声門閉鎖の影響を避けるため、1秒以上安定して得られた値を測定値とした。また肺機能はチェスト社CHESTGRAPHHI-701を用い、肺活量(以下VC)、最大呼気流量(以下PEFR)を測定した。呼吸筋力および肺機能の測定は3回行い、最大値を採用した。胸囲は最大呼気位にて、テープメジャーを用い、乳頭部胸囲と剣状突起部胸囲を測定した。PImax、PEmaxと各項目との相関関係の検討には単回帰分析を用い、危険率5%をもって有意とした。【結果】PImaxと有意な相関関係が認められた項目はVC(r=0.52)、PEFR(r=0.42)、乳頭部胸囲(r=0.72)、剣状突起部胸囲(r=0.63)、体重(r=0.71)であり、年齢、身長との間には有意な相関関係は認められなかった。PEmaxと有意な相関関係が認められた項目は VC(r=0.52)、PEFR (r=0.42)、身長(r=0.43)であり、年齢、体重、乳頭部胸囲、剣状突起部胸囲との間には有意な相関関係は認められなかった。【考察】PImax、PEmaxは年齢の影響を強く受けると諸家により報告されているが、頚損者は健常者に比して年齢による影響が小さく、PImax、PEmaxの影響因子として加齢による残気率の増加、栄養状態の変化、全身的な筋量の低下よりも機能している筋自体の影響が大きいと考えられた。PImaxと体重は有意な相関関係が認められ、Arora、西村の報告による体重と横隔膜の筋量との相関関係を踏まえれば、PImaxは横隔膜の筋力を反映していると考えられる。また、PImaxは乳頭部胸囲、剣状突起胸囲との有意な相関関係も認められ、胸囲は横隔膜の筋量を反映しているかもしれない。PImax、PEmaxとVC、PEFRには有意な相関関係が認められたものの、相関係数は小さく、諸家の報告と同様の傾向が認められた。これは口腔内圧と肺機能の影響因子として呼吸筋が主であるとは思われるが、他の影響因子がそれぞれ異なっていることを示唆していると思われた。

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