理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: HP255
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呼吸器疾患
食道癌術後肺合併症の要因について
術前理学療法評価からみた多変量解析による検討
*大澤 智恵子中山 恭秀石田 久美子樋口 謙次山本 加奈子徳田 紘一安保 雅博宮野 佐年網本 和
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キーワード: 食道癌, 術前評価, 肺合併症
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抄録

【はじめに】食道癌摘出術は肺合併症併発の危険性が高く、周術期の理学療法は、主に肺合併症の予防と在院日数の短縮を目的に行われている。当院において、食道癌摘出術を施行する患者に年齢、BMI、嗜好(タバコ、アルコール)呼吸機能検査をはじめとする術前理学療法評価をクリニカル・パスウェイの一環として行っている。今回これらの術前評価項目より、術後肺合併症に影響を及ぼしている要因を抽出するため、多変量解析による判別分析を用いて解析し、検討を行った。  【対象】当院にて平成12年11月から平成14年9月までに食道癌摘出術を施行された患者32名(男性29名、女性3名、平均年齢62.1±8.1歳)を対象とした。【方法】術前理学療法評価である、年齢、BMI、タバコの本数/日、アルコール摂取量/日、呼吸数/分、肺活量(VC)、一秒率(FEV1.0%)、最大呼気流量(PEF)、V(dot)50/V(dot)25の9項目をカルテより後方視的に調査した。これらの項目から、術後肺合併症に最も影響する因子を判別分析(ステップワイズ法)により抽出した。呼吸機能測定にはチェストエム・アイ社製マイクロスパイロHI-298を、多変量解析にはSPSSを用いた。【結果】肺合併症併発の要因として、タバコの本数/日(標準化された正準判別関数係数1.025)とPEFの低下(-0.803)が選び出された。【考察】今回の食道癌摘出術32症例における術後肺合併症の併発率は全体で31.2%(13症例)であり、無気肺が最も多く5例、続いて肺炎4例、胸水4例となっている。無気肺は全身麻酔後の横隔膜運動の低下や残気量の低下による肺胞の虚脱、気道内分泌物による気道閉塞が原因で生じるとされている。喫煙は、気管浄化作用の障害や気管支・細気管支炎を起こし、さらに気道内分泌物の増加、肺機能低下、ガス交換障害、気腫化傾向を引き起こす。これらは喀痰の予備能力が低下している事から、肺合併症併発の危険因子となり得ると考えられる。また、PEFは最大呼気圧と有意な相関があり、喀痰喀出力の指標としても有用とされている。このことから、喫煙やPEFが気道のクリアランスに影響を与えることにより肺合併症の要因となり得る事が示唆された。今回の研究では、術前での評価を対象として術後肺合併症に対する判別分析を行ったが、術中の要因や術後の要因も肺合併症に影響を与えていると考えられる。従って、これらを含めた周術期に関連する要因による肺合併症への検討が今後の課題とされた。しかし今回の結果より、術前理学療法評価により術後肺合併症併発の予測をすることで、肺合併症の危険性の高い症例を前もって把握し、周術期の理学療法に十分な注意を払う体制が可能になると考えられた。また、術前よりPEFの改善をはかることが、肺合併症併発の予防に効果的に働く事が示唆された。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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