理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: HP254
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呼吸器疾患
食道癌患者の術前後における肺機能、筋力、全身耐容能について
*上村 洋充森沢 知之梅田 幸嗣辻井 彩子真淵 敏道免 和久
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キーワード: 食道癌, 肺機能, 筋力
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抄録

【はじめに】 食道癌患者の外科治療は開胸操作を必要とするものが多く、手術侵襲が大きくなるため、術後肺合併症が発生しやすい。しかし、近年では手術や術後管理の向上により、重篤な肺合併症を引き起こし、呼吸管理が困難となる症例が以前に比して減少した傾向にあり、理学療法を実施する上で離床や全身的な運動療法の導入が早期より可能で、院内ADLの早期獲得が比較的容易な症例も少なくない。一方、それに反して、疲労などの訴えにより活動性が低い患者が非常に多く、さらには、退院後も活動量が低下したままという症例も経験する。また、術後は長期にわたり食事量も減少し、栄養確保が十分かどうか疑問である。このような全身耐容能の低下は患者のADL向上を阻害するため、全身的に捉えるべきである。そこで、今回我々は、術前と理学療法終了時に肺機能とあわせて運動負荷試験と筋力測定を実施し、それらの変化と影響を検討した。【対象】 対象は、食道癌患者6例。男性4例、女性2例。年齢40から64歳、平均52.7±9.0歳。全例、肋骨床開腹および上腹部正中切開にて根治切除と再建が施行された。うち、頚部吻合例5例、胸腔内吻合例1例。術前状態は、全例、中枢神経系、整形外科疾患や循環器、代謝性疾患などの既往がなく、ADLは自立。肺機能は1例に1秒率67%と軽度の閉塞性障害を認めたほかは全例正常。術後測定は退院前または理学療法終了時で患者の活動性が院内自立し、食事が全粥まで進んでいる状態の患者。【方法】 患者の身長、体重、肺機能、呼吸筋力、下肢筋力、運動負荷テスト(運動負荷テストは6例中5例測定)を術前後に測定した。まず、栄養状態は総タンパク、アルブミン値の他に指標の一つとして標準体重と体重の比で%栄養指数をみた。次に、肺機能はミナト医科学社製Autospiro AS-302、呼吸筋力はチェスト社製Vitalopower KH-101を用い、肺機能、最大吸気圧(MIP)、最大呼気圧(MEP)を測定した。下肢筋力は膝関節60°屈曲位での最大膝関節伸展筋力測定。なお、これらはそれぞれ2回測定し、最大を採用した。運動負荷テストはエルゴメーターにてランプ負荷法で実施し、呼気ガス分析はミナト医科学社製AERO MONITOR AE-300Sを用いて測定した。【結果および考察】 術後測定は平均第32病日。身体計測では体重が術後に平均で約4Kg減少し、%栄養指数も全例低下した。肺機能は肺活量(VC)で術後平均約30%低下し、拘束性障害を認めた。呼吸筋力はMIPが術後平均約21%低下し、MEPは差が無かった。VCの低下度とMIPの低下度に相関はなかった。下肢筋力は平均約10%の低下を認めた。運動負荷テストでは術後全例にVO2maxとATの低下を認めた。安静時、運動負荷時の一回換気量、呼吸数からみて術後は換気パターンは拘束性パターンを示した。最大運動負荷時の分時換気量は術後1例で低下したがその他は大きな差はなかった。このように、術後は肺合併症の有無や歩行自立のみでなく、全身耐容能に対して、ただ活動量を増やすだけでなく、栄養状態やリスクを把握した上での骨格筋への取り組みが必要である。

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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