文化人類学
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第18回日本文化人類学会賞受賞記念論文
変容する脱植民地化の影響と脱中心化した文化人類学
いま、対話を捉えなおす
太田 好信
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2023 年 88 巻 3 号 p. 417-434

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抄録

本論は、忘却と記憶を物語る。文化人類学的知の民主化に向け対話性を想起しようという呼びかけである。知の権威は危機にあり、未来は不透明なときだからこそ、文化人類学の「民族誌的感性」が重要になる、とジェイムズ・クリフォードは主張している。民族誌的感性とは、聞くことが学びであり、自己を驚きに開き続け、翻訳という関係性にコミットすることをいう。本論では、クリフォードのいう「民族誌的感性」とは知の脱中心化であり、それは対話、協働、アンラーニングなどの諸概念に結びつくことを述べる。

脱植民地化の影響下、現在は過去との間で対話を求められてもいる。文化人類学者も説明責任(アカウタビリティ)を問われ、歴史に絡め取られていることへの自覚を無視できなくなった。脱植民地化は再創造されていると理解すれば、20世紀後半から現在まで文化人類学が継続し、対応を迫られている困難な課題といえる。本論では『文化を書く』は「文学的転回」や「言語的転回」の兆候ではなく、脱植民地化への対応という歴史性を重視した解釈をおこなう。脱植民地化からの挑戦は、「協働」という発想を促した。しかし、協働は忘れていた過去の復活ともいえる。『文化を書く』で言及されたバフチンの対話性を媒介とし、文化人類学の「起源神話」となっているマリノフスキのフィールド調査者像から目覚め、脱中心化した知として文化人類学を捉えなおすことで、脱植民地化に対する応答を継続したい。

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2023 日本文化人類学会
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