主催: 日本ヒトプロテオーム機構
スーパーオキシドや過酸化水素といった活性酸素種(ROS)は、動脈硬化症などの血管病の発症や進展に重要な役割を果たす。NADPHオキシダーゼは血管組織における主要なROS産生系であり、血管平滑筋細胞(VSMC)では、アンギオテンシンIIやプロスタグランジン(PG)F2αなどの刺激により、本酵素の触媒サブユニットであるNOX1が発現上昇し、VSMCの増殖・肥大を引き起こす。この時、NOX1から産生されるROSは、細胞内あるいは細胞間シグナル伝達物質として働くと考えられているが、どのような生体内物質がROSの標的となっているかについてはほとんど分かっていない。そこで本研究では、NOX1がタンパク質のシステイン残基を酸化的修飾 (スルフェニル化、スルフィニル化、スルホニル化、ジスルフィド結合)するという仮説をもとに、酸化的修飾を受けたタンパク質チオールの網羅的定量解析を行った。ラットVSMC株A7r5を低血清培地で培養後、PGF2αで刺激することによりNOX1の発現誘導を行った。このPGF2α刺激細胞と比較対照の無刺激細胞から、各々ヨードアセトアミド存在下でタンパク質を抽出後、TCEPを用いてチオール基の還元を行った。両タンパク質試料をそれぞれlight(12C)およびheavy(13C) cICATタグで標識し混合した後、トリプシンを用いて消化した。cICAT標識ペプチドをアフィニティーカラムで精製し、2D-LC MALDI-TOF/TOF質量分析装置を用いて測定を行った。その結果、PGF2α刺激によりシステイン残基の修飾が亢進していると考えられるタンパク質が48個検出および同定された。これらがNOX1の標的となるのかどうか明らかにするために、siRNA導入後にPGF2α刺激した細胞を用いて、同様の実験を行った。その結果、上述の48個のタンパク質の修飾部位はすべて検出され、そのうちPGF2αによる修飾亢進がsiNOX1の導入により減弱したタンパク質が14個検出された。これらはNOX1の標的である可能性が高く、現在、当該タンパク質群の修飾がVSMCの増殖肥大に関与しているのかどうか検証を行っている。