日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S8-4
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プロテオミクスの農学への応用
筋肉から食肉への変化と牛肉の品質
*千国 幸一室谷 進大江 美香亀山 眞由美
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抄録

 家畜の骨格筋は食肉として利用される。しかし、食肉は骨格筋とイコールでなく、骨格筋から食肉へなるためには一定の過程を経なければならない。牛肉はと畜後に死後硬直が始まり、2日後が最も硬い状態となる。このときの牛肉は硬いだけでなく味も薄い。その後2週間程度の熟成期間をおくことで柔らかくておいしい牛肉が完成する。この間に牛肉のタンパク質は様々な変化を受ける。死後硬直はカルシウムイオンを引き金とする一連の筋収縮反応である。プロテオーム解析を行うと死後硬直時にタンパク質の分解は認められないが、ミオシン軽鎖のリン酸化変化を見ることができる。死後硬直の後に続く反応は内因性のプロテアーゼによる特定のタンパク質の分解である。食肉の熟成は筋タンパク質の分解による筋構造の崩壊現象であるが、全てのタンパク質が平等に分解するわけではない。多くのタンパク質を同時に見ることができるプロテオーム解析は熟成変化を追う上で非常に有効な手段となる。新鮮な牛肉と熟成後の牛肉を比較すると、筋構造タンパク質のなかでもデスミンとトロポニンTに変化の起きていることがわかる。筋肉を構成するタンパク質はどの筋肉部位でも同じわけではなく、多くのアイソフォームが存在する。動物の筋肉はアイソフォームの種類や存在割合を変化させることで収縮特性を制御している。遅筋型筋線維では遅筋型アイソフォームが発現し、速筋型筋線維では速筋型アイソフォームが発現している。このアイソフォームの違いは多くの筋構造タンパク質に存在し、プロテオーム解析でその違いを見分けることができる。また、筋構造タンパク質だけでなく筋肉に存在するミトコンドリアにも違いがあるのではないかと考えて解析を進めている。筋肉に存在するこれらのタンパク質の違いは調理の過程で生成する成分やテクスチャーに影響を与え、最終的には牛肉の味の違いとなって表れてくる。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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