【目的】我々は本学会100回大会において、赤色蛍光蛋白humanized Kusabira-Orange (huKO)を全身性に発現するトランスジェニック(tg)ブタの作出を報告した。そのブタでは、肝臓での蛍光発現が、自家蛍光に妨げられることなく、極めて明瞭であることが分かった。そこで本研究では、huKOを肝臓特異的に発現するtgブタの作出を目的とした。【方法】BACクローン由来のブタアルブミン遺伝子プロモーター全長領域にhuKO遺伝子cDNAを連結したコンストラクト (約170kb)を、ICSI-mediated genet transfer法によって、ブタ体外成熟卵に注入した。超音波処理を施した凍結融解精子 (2-5 x 104個/µl)と導入遺伝子コンストラクト(0.5ng/µl)を5分間室温下で共培養後、MII期卵に顕微授精した。顕微授精は、電気的活性化刺激(DC150V/mm、 100µsec, 1回)を卵に付与し、20分以内に行った。受精卵をPZM-5培地で1-2日間培養後に発情同期化したレシピエント雌に移植し、founder産仔を作出した。tg個体(雌)を育成し、性成熟後にwild type雄と交配し、産仔を得た。tg個体をPCRにより同定し、生後78日齢にて剖検して、各臓器・組織(心臓、肺、胃、腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、皮膚)の蛍光発現を観察した。また、導入遺伝子の組織特異的発現をRT-PCRにより解析した。【結果】合計523個の顕微授精卵を4頭の雌に移植した結果、19頭の産仔が得られ、その内1頭(雌)がtg個体であった。この個体とwild type雄との交配によって、産仔全8頭中に4頭のtg個体(1頭死産)が得られた。生存仔3頭では、肝臓に明瞭な赤色蛍光発現が認められたが、他の臓器・組織では、蛍光発現は全く見られなかった。RT-PCR解析では、肝臓組織のhuKO遺伝子発現に対し、他組織では0.5-2.0%以下のレベルであった。【結論】アルブミンプロモーター全長領域を利用した導入遺伝子発現制御によって、肝臓特異的にhuKO遺伝子を発現するブタの作出が可能であることが示された。