日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S34-2
会議情報

シンポジウム34: 【日本内分泌撹乱物質学会共同シンポジウム】子供の脳の毒性学:外来性分子が引き起こす高次脳機能の変調の機構解明
発達期の脳に重要なコリン作動系を撹乱するネオニコチノイド系や有機リン系殺虫剤曝露による哺乳類の脳発達への影響
*木村-黒田 純子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2022年12月に文部科学省は、通常学級に通う小中学校の児童生徒の8.8%に、発達障害の可能性があると報告した。自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)、注意欠如多動症(ADHD)など発達障害の急増が、社会問題となっている。従来、発達障害は遺伝要因が大きいと言われてきたが、膨大な遺伝子研究や疫学研究から、環境要因の重要性がわかってきた。環境要因は多様だが、なかでも農薬など環境化学物質の曝露が疑われている。2010年頃から、有機リン系農薬(OP)曝露が脳に悪影響を及ぼし、発達障害のリスクを上げることを示す疫学論文や動物実験が多数発表された。国内では欧米で禁止・規制されているクロルピリホスを含むOP系農薬がいまだに使用され、ネオニコチノイド系農薬(NEO)の大量使用も継続している。国内の乳児や子どもの尿中には、OPの代謝物やNEOが極めて高率に検出され(Environ Res,147,2016, Environ Int, 134,2020, Sci Total Environ, 750, 2021)、慢性複合曝露影響が懸念される。OPはアセチルコリン分解酵素を阻害し、NEOはニコチン性アセチルコリン受容体を介したシグナル毒性(J Toxicol Sci, 41, 2016)を示し、共にコリン作動系を攪乱する。コリン作動系は、中枢及び末梢の脳神経系で重要であるだけでなく、発達期の脳でシナプス・神経回路形成を担っている。我々のラット発達期小脳神経細胞培養系では、NEOが短期曝露でニコチン様の興奮反応を起こし(Plos One,7,2012)、長期曝露で樹状突起伸展を阻害した(IJERPH, 13,2016)。我々のデータと共に国内外の報告から、NEOの影響を中心に、コリン作動系を介した脳発達について考察する。

著者関連情報
© 2023 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top