日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-3
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シンポジウム3: 生体金属部会シンポジウム 〜金属毒性学の50年史とこれからの50年にかける期待〜
セレンをめぐる誤解の歴史 -その必須性、毒性、薬理作用-
*姫野 誠一郎
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抄録

多くの元素は過剰摂取すれば毒性を示し、欠乏すれば不足症状を示す。しかし、セレン(Se)には、毒性、必須性に加えて薬理作用があり、しかもそれぞれの用量-反応関係が接近しており、国際間・地域間での摂取量が大きく違うという特徴がある。ヒトが摂取するSeレベルは、土壌中Se濃度、そこに栽培される植物中Se濃度に大きく影響を受ける。米国サウスダコタ州では土壌中Seが牧草に蓄積して家畜のSe中毒症が発生したが、米国の小麦・トウモロコシ耕作地帯は全般的に土壌中Se濃度が高く、これが米国民だけでなく、米国の小麦・トウモロコシ(家畜飼料)輸入に依存する日本人のSe摂取レベルに影響を及ぼしている。一方、中国の土壌中Se濃度の顕著に低い地域でSe欠乏による心筋症が発生したが、北欧も土壌中Se濃度が低い地域であり、北欧から報告されるSeに関する疫学調査の結果は、Se摂取レベルの異なる他の国では再現されないことが多い。主に北欧からの疫学報告により、Seの抗がん作用に注目が集まった。しかし、Se摂取レベルの高い米国で行われたSeによるがん化学予防のトライアルは完全な失敗に終わり、逆にSe過剰摂取による糖尿病発症率の上昇という新たな課題を提示した。Seによる抗がん作用は、Seの抗酸化作用では説明がつかないことが多く、むしろ薬理作用としての細胞増殖抑制作用と考えた方が理解しやすい。薬理作用と副作用が起こる濃度が近い薬は悪い薬であり、薬としてのSeは悪い薬である。実際、中国でのSe中毒症の症状は抗がん剤の副作用と多くの類似点がある。Se摂取レベルが低レベルから通常レベルに変化するときには抗酸化作用も上昇するが、必要量以上にSeを摂取しても抗酸化作用は頭打ちになりそれ以上上昇しない。これらの点を誤解すると、不必要で、場合によっては有害なSe補給を行う原因となりうる。

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