日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-068S
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学生ポスター発表賞 応募演題
PM2.5に含まれるエンドトキシンによる脳梗塞予後の増悪
*根津 直幸田中 美樹奥田 知明石原 康宏
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抄録

最近の疫学研究により、大気汚染の主な原因の1つである微小粒子状物質(PM2.5)は、脳神経系に影響することが分かってきた。大気中PM2.5濃度増加により脳梗塞発症後の入院日数の増加や死亡率の上昇が報告され、PM2.5は脳梗塞予後を増悪させることが示唆されている。しかし、PM2.5の構成成分は多様で、PM2.5のどの成分が脳梗塞予後悪化に関わるかは明らかではない。そこで本研究ではPM2.5に含まれるエンドトキシンに着目し、その脳梗塞予後に及ぼす影響を解析した。

まず、C3H/HeN(正常TLR4発現)とC3H/HeJ(変異TLR4発現)系統のマウスを用い、エンドトキシンの作用を検討した。横浜で採取したPM2.5を7日間経鼻曝露し、光血栓法により脳梗塞を誘導して、脳梗塞後の運動機能をロータロッド試験により調べた。しかし、PM2.5曝露に関わらず、系統間で運動機能障害に差が見られた。これはTLR4が脳梗塞の予後を悪化させることを示しており、エンドトキシンの作用を評価するには適切でない実験であった。そこで次に、エンドトキシンのTLR4結合を阻害することが知られているポリミキシンB(PMB)を用いた。U937より分化させたマクロファージにPMBで前処置したPM2.5を曝露したところ、PM2.5処置により生じる炎症性分子の発現増加が有意に抑制された。従って、PMBはPM2.5に含まれるエンドトキシンの作用を中和すると考えられる。ICRマウスにて脳梗塞予後を調べると、PM2.5曝露ではコントロールと比較して運動能力の増悪とその回復の遅延が認められ、PMBの前処理はこれらの作用を抑制した。

以上の結果より、PM2.5に含まれるエンドトキシンが炎症を介して脳梗塞予後を悪化させることが示唆された。PM2.5中エンドトキシンの脳梗塞予後悪化メカニズムの精査は、今後の課題である。

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