日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: O2-01
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一般演題 口演 1
無機ヒ素曝露により誘導された肝細胞の細胞老化およびSASP因子の増加は曝露を中止後も維持される
*岡村 和幸鈴木 武博野原 恵子
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抄録

 無機ヒ素(以下ヒ素)曝露による発癌の特徴として曝露を中止した後にも潜伏期間を経て発症することが知られている。これまでにヒ素曝露による肝臓の発癌機序として、細胞老化とそれに伴うSASP因子の増加に着目し研究を行ってきた。具体的には肝星細胞、肝細胞においてヒ素曝露によって細胞老化誘導およびSASP因子の増加がおきることを明らかにした。しかし、肝細胞においてヒ素曝露が誘導する細胞老化によるSASP因子の増加が曝露中止後も維持されるかについては不明確であった。本研究では、ヒ素曝露によって誘導された肝細胞の細胞老化およびSASP因子の増加が、ヒ素曝露を中止した後にも持続するかについて検討を行った。

 肝細胞の細胞株であるHuh-7細胞において、細胞老化が誘導される条件である亜ヒ酸ナトリウム5 μMを72時間曝露し、曝露完了後、ヒ素を除いた培地で100時間培養を行い、細胞老化マーカーおよびSASP因子の遺伝子発現量を測定した。その結果、細胞老化の特徴である形態学的な変化(巨大化、扁平化)、細胞老化マーカーの遺伝子発現変化(P21の増加、LAMINB1の低下)が曝露中止後も維持されていることが明らかになった。また、SASP因子として検討したMMP1, MMP3, MMP10, GDF15, PAI-1, IL-6の遺伝子発現量の増加も維持されていた。加えて曝露中止後7日が経過しても老化した細胞が存在し続けることをSA-β-gal染色によって明らかにした。さらに、TCGAデータベースを用いた解析により、肝細胞でヒ素曝露によって増加していたSASP因子の多くは、ヒト肝細胞癌において発現増加と予後不良との間に正の相関があることが示された。

 以上の結果より、肝細胞においてヒ素曝露による誘導された細胞老化およびSASP因子の産生亢進は、曝露を中止しても維持され発癌促進に関わる可能性が示唆された。

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